社用車ホンダ ステップワゴン(初代)が車検を受け、その期間ホンダディーラーから代車が寄越された。それがなんとヴェゼルである。当社のステップワゴンはもはや20年選手であり、ホンダディーラーはきっとセールスの機会と捉えて、ちょっとイイヤツを送り込んでくるだろうという筆者の予想はまんまと大当たりであった(笑)。
ホンダ ヴェゼル(車検証による)
総走行距離約2,300km
初年度登録 令和元年(2019年)
形式 DBA-RU1
原動機の形式 L15B
排気量 1.49L(ガソリン)
車両総重量1,465kg(前軸重750kg 後軸重440kg 車両重量1,190kg)
全長 433cm
全幅 177cm
全高 160cm
社用で、しかも同僚を載せて市街地を20km弱走っただけなので、例えばタイヤ銘柄は確認し損ねている。トヨタ C-HRに圧されてヴェゼルがすでに劣勢に回った「古いモデル」であることは商圏的には間違いないが、1台の自動車として見てみれば今回の個体はバリバリの新車である。いつものくたびれた代車の試乗記とはちょっと違いますよ(笑)。
さて、筆者は昨今市場を席巻するヴェゼルのようなSUVというジャンルの自動車にはほとんど興味がない。筆者にとってオフローダー、クロスカントリー車とはスズキ ジムニーだったりランドローバー ディスカバリーだったりジープ ラングラーなのであって、それらと同等に渡河したり荒野のガレ場を走破できるはずもない乗用車ベースの背高クルマには興味が持てないのだ(まぁ仙台程度の雪の朝には重宝するかもね、程度)。だが一方でこれほど持て囃される理由にはとても興味がある。少しでもそれがわかれば、と同僚からキーを引ったくって運転してみた(笑)。
●運転席環境
まず室内デザインについて。ホンダにありがちな複雑なパーツを何層にも重ねたような、目にうるさければ操作も複雑になりがちなコンソールデザインは見られない。昨今ありがちななんでもかんでも液晶タッチディスプレイでコントロールさせられるようなものもない。しかしこれはヴェゼルの設計が古いというだけで、モデルチェンジしたら真っ先に手を入れられる部分ではないか。ナビは2DIN社外品をどうぞご自由に…という今や古の方法。この個体にはGather名義のホンダ純正ナビがインストールされていた。これはあくまでナビゲーションとオーディオ類だけのユニットであり、クライメートコントロールはその下段に独立配置されている。このクライメートコントロールが液晶タッチディスプレイ方式である。最低最悪。部品数が減ってコストが下がって良かったですね。ちなみにデュアルゾーンエアコンではなかった。
運転姿勢を調整する。ハンドルはシートに正対して中央にあり、ペダルオフセットは確かにあるが、運転しにくさを覚えるほどではない。シートバックをやや立て気味にセットし、メータークラスタ中央に大きく鎮座する速度計盤面の傾斜と視線を合わせてやれば、正しい運転姿勢が自然と決まる。その時の座面長はわずかに短く膝裏は宙に浮くが、面でのホールドは最低限ある。硬過ぎず柔らか過ぎず。むしろシートバックがきちんと肩甲骨の下端周辺を押えてくれており、10時10分でハンドルを握る腕との関係も良好。
ヴェゼルのハンドルにはスイッチがてんこ盛りである。それはもう珍しいものではないが、ODDメーターを表示させるだけでも大騒ぎである。前述の車両諸機能の設定が、どうやらここに集中しているようだ(未確認)。筆者の感想としては、あらゆる操作子をハンドルにまとめるよりも、表示される場所の付近に関連する操作子が配置されている方が、人間として判断しやすいように思う。この不備はホンダに限った話ではない。
運転行為とは直接関係ないが、物入れやソケット類が充実していて驚いた。もっとも同乗した同僚(スバル フォレスター乗り)は、物足りなさそうだった。オフローダーな人と、速くコーナリングすることに血道を上げる人とは、車内に求める機能も違うのだなぁと感慨深い。
シフトレバーの下は
小物…大物入れと
様々な規格の接続端子が。
なんとHDMIまであったけど、
何に使うの?
運転席からの視界について本格的には追い込めなかったが、ピラーで視界が妨げられる体験は(短い試乗時間の中では)無かった。この手の自動車特有の高い着座位置からの視線は筆者には新鮮で、周囲の視認が楽なことは間違いない。つまりヴェゼルの運転環境は、かなり健やかだと言える(クライメートコントロール部分は除く)。ちなみに帰路は同僚に運転を任せて助手席に座ってみたが、シートのサイドサポートも含め、運転席と比べての明らかな手抜きは感じられなかった。後部座席には乗る機会なし。
●動的感想
市街地を法定速度で走行した範囲での感想を書いてみる。まず感じたのは「真っすぐ走るのが楽!」ということだった。ということはEPS(パワステ)がセンター付近でがっちり壁を作る嫌ぁなパターンか?と左右の微舵を試してみたが、そういうことでもない。ただし微舵に忠実に反応するわけでもなかった。つまり意図的に「速い舵にはしていない」ということなのだろう。直進が楽なことは明らかにメリットである。
視界が良く直進が楽なのは素晴らしいことだが、ネガティブな点が無いわけではない。まず左側面、もっと言うと左前輪の位置が把握しにくい。これはボンネットの前傾斜がきつく、前端が把握しにくいこととも相互関係があるように思う。理由はともかく、自信を持って位置決めしにくいのは残念だ。これが本格的なオフローダーなら文字通り死活問題である。
スローギアードなステアリングと併せてなんとなくもどかしい感触を覚えるのがスロットル、Aペダルである。ペダルの反応が遅いというよりは、エンジンはがんばっているようだが車速がついてこない系。もどかしいと感じる一歩手前という感じだ。とは言え一時期のホンダ車にあった狂騒的なレスポンスが胡散霧消したことはめでたい。ペダル踏み込み量と加速の感覚はリニアと言えるレベルにあり、コントロールに神経を使うようなことは(少なくとも街乗りレベルでは)ない。車高もロールセンターも高くなるであろうヴェゼルのような車両では、加速も旋回もピーキーではない方が良い、とホンダは言いたいのだろう。それはひとつの見識として受け入れることができる。
ごくわずかな時間・距離を走っての感想なので、なんだか静的観測ばかりが長くなってしまった。運転してみてSUVが持て囃される理由の一部でも理解できるかと期待したが、どうもやっぱりよくわからない。仙台市街地のような低速で走らざるを得ない細い生活道路から、ゴー・ストップを含めた極端な加減速を繰り返す郊外の混雑する国道のようなシチュエーションの両方を走ってみても、なにか明確な利点は感じられなかった。背高で視線が高いことから期待される見切れの良さは、前述のとおり車体デザインの不備によって万全ではなかったし…。そもそもどういうシチュエーションならSUV車両の善し悪しがわかるのだろうか。まずはそこから勉強せよ、ということだった。尻切れトンボっぽいが、これにて了。