カタログの表紙
アルファロメオ ジュリア スーパーに試乗した。アルファロメオ仙台泉にて。アルファロメオというブランドが今後向かいたいと思っている方向がよくわかり、「とは言うけれど、現状では順風満帆ではない事実」も見えてくる試乗体験だった。向かいたい方向とは「高級車化」である。ジュリア、ステルヴィオの投入や、新CIに基づく地方ディーラー店舗の改装など、アルファロメオの意思表示はこれまでも折々に発せられていたが、とにかくジュリアを見て、乗れば、高級化への転身意欲は身体で納得できる。「スポーティネスはそのままに、高級車路線に舵を切った」という、ある意味転換点に立ち会っているという感慨があった。同時に高級車ブランドとして認知されたいなら、まだ成すべき仕事はあるとも思う。
今回の主役
なにはともあれ、2017年11月時点でのジュリア・スーパーのスペックを書いておこう。
全国メーカー希望小売価格(消費税含)543万円
ハンドル位置 右
ドア数 4
全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm)
4,645 × 1,865 × 1,435
ホイールベース(mm) 2,820
トレッド 前/後(mm) 1,555 / 1,625
車両重量(kg) 1,590
乗車定員(名) 5
エンジン型式 55273835
エンジン種類 直列4気筒 マルチエア 16バルブ インタークーラー付ツインスクロールターボ
総排気量(cc) 1,995
最高出力〈kW(ps)/rpm〉[ECE] 147 (200)/4,500
最大トルク〈Nm(kgm)/rpm〉[ECE] 330 (33.7)/1,750
燃料供給装置 直接噴射式 電子制御燃料噴射
燃料タンク容量/使用燃料 58リッター/無鉛プレミアムガソリン
ラゲッジルーム容量 480リッター
駆動方式 後輪駆動
トランスミッション形式 電子制御式8速オートマチック
変速比 1速 5.000 2速 3.200 3速 2.143 4速 1.720 5速 1.314 6速 1.000 7速 0.822 8速 0.640
ステアリング形式 ラック&ピニオン(電動パワーアシスト付)
サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン (スタビライザー付)
後 マルチリンク (スタビライザー付)
主ブレーキ 前 ベンチレーテッドディスク
後 ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ 前 225/45R18 後255/40R18
最小回転半径(m) 5.4
項目と数値はすべて http://www.alfaromeo-jp.com/models/giulia/super/spec#start より転載しているが、項目などは筆者が一部取捨選択している。
<静的観察>
実車を見るのは実は初めてではない。卸町イデアルさんの敷地ですでに何度かしげしげと見ている。なるほど、写真で見るよりも実車は数段かっこ良い。つまりアルファのクルマとしてはすでに合格点と言える。かっこいいという、ただそれだけで。格好良いだけでなく、BMWやメルセデス諸モデルともきちんと差別化できている。これも重要なことだと思う。全幅1,865mmなのにずいぶんすっきり見える。ソリッドホワイトの塗装色のせいだけでなく、外観の目に付くところの要所要所が絞られているからだろうか。ともあれ大きさばかりは自宅の駐車場に置いてみないと、その大きさを実感できない(笑)。
こちらは卸町、展示用ヴェローチェ。
なるほど、こっちはでかい…と感じる
乗り込んでみる。ぐっ…乗りにくい…。なんとMiToよりも全高が低い。試乗後に後席にも座ってみたが、かなり乗りにくく降りにくかった。こういうところはアルファである(笑)。前席に座っての最初の印象も基本的にはタイトである。それなのにカップルディスタンスはMiToとは比べ物にならないほど遠く、つまりドライバーの目の前の造形がぎゅっと凝縮されているように見えるデザインなのだ。筆者としては好ましい。インパネに誂えられたウッドパネルがサルーンムードを高めている。いくつかのスイッチ類を操作してみたが、クリック感や反力はやや強め。意外やこういう部分でも「高級感」は演出可能なのだな、と感心する。
例の、「ドライバーオリエンテッド」的な
運転席に座ると目の前には
こんな風景
昨今の潮流どおり、大型液晶ディスプレイがセンターコンソールに鎮座。Apple CarPlay、Google Andoroid Autoに対応しているためナビ機能はない。オーディオ、電話、車両情報確認、諸設定確認ができる。タッチセンス式ではなく、コマンドセレクトダイヤルといくつかのスイッチで操作できる。アルファよ、おまえもか…!!一方デュアルゾーンオートエアコンは物理スイッチ+ダイヤルがあるので、こちらは従来通り「ドライバーの視点を必要以上に占有することなく」操作できる。
ドライビングポジションの自由度は高い。ステアリングコラムはテレスコ/チルト調整が可能で、その調整代は大きい。電動シートの座り心地は硬めで、取り立ててホールドが良いわけではない…というか、むしろかなり鷹揚な設え。こういう印象からも「グランドツアラー的な性格なんじゃないか…」という予想がより裏付けられたような気になってくる。にしては着座高は低い。埋もれる印象ではないが。そして残念なことにRHD環境は満点ではない。相変わらずステアリングセンターは若干(多分10mmくらい?)右にズレている。オルガン式Aペダルは逆にもう少し右に寄ってくれると嬉しいのだが。そしてフットレストもない。写真でしか比較していないが、ヴェローチェ(LHD)にはフットレストがあるようだ。
冒頭に書いた「高級車ブランドとして認知されたいなら、まだ成すべき仕事はある」という部分について。筆者が気がついたところでは、シート下部やセンタートンネル上のプラスティック樹脂部分はB、Cセグメントそのもの。その部分だけ唐突に「あ!MiToとおんなじ!」なのだ。筆者は別に気にならないが、BMWやメルセデスと両天秤にかけようという(アルファにとっては)新規顧客予備軍にとって、これは興醒めであろう。
プラスティック樹脂の感じはペコペコ系なれど、
後席環境は優良
Dセグメントで本体価格が税込543万円だから、電子制御も最新のものが多数。同乗してくれた営業担当のHさんがひととおり操作を説明してくれるが、運転に直結なのはギアシフトセレクターくらいだろうか。そもそもシフトセレクター自体がスティック状のスイッチでしかない。いよいよ出発である。
<動的観察>
試乗コースは仙台市北部の住宅地が中心なので、路面はきれいだし曲がりにくいコーナーもない。当然バカみたいに飛ばすこともできない。エンジン音は静かだし、8段トルコンATが常に最適なギアを選び続けるので角度のきつい上り坂でもまっっっっったく痛痒を感じない。Hさんの勧めでd.n.a.システムのダイナミックモードも体験したが、Aペダルの付きが良くなる感じがする程度。加えてシフトチェンジの際にショックが大きくなるようだ(ナチュラルモードでは変速ショックはほぼゼロ)。この変速ショックはおそらく演出なのだろう。dモードだからと言って、昨今のプジョー車のようにメーターが真っ赤になるとか、そういう大げさな演出もない(わずかにインフォメーションスクリーンの中に赤いラインが入る程度)。
8段トルコンATは過不足なし(どこの商品なのだろうか)。しかしなぜアルファいち押しのTCTを搭載しなかったのだろうか。ちなみにTCTを搭載したジュリエッタ ヴェローチェの最大トルクは、ダイナミックモードで34.7kgmだから、ジュリアの2リッター直4の最大トルク33.7kgmを受け止めきれないということもないだろう。しかしこのトルコンATは、ツアラー的キャラクターのジュリア スーパーにとてもよく合っている。
履いているタイヤはピレリ チントゥラートP7で、スペックを見て気付いたが、18インチであるがサイズは前後で異なる。改めて確認するとこのタイヤはランフラットタイヤ。むしろ硬い味が「スポーティネス」的味わいに貢献しているとさえ思った。高速道路走行や荒れた路面を走ってみないと最終的な判断はできないのだが、普通に走っている分には乗って気になるところはなかった。ランフラット前提のチューニングが施されているのだろう。
他に気付いたことと言えば、ターンシグナル(ウィンカー)レバーも電子スイッチでしかなく、上げても下げてもラッチされないのは違和感があった。シグナルを発する時は大きめのクリック感が応えるのだが、都度「え?レバー戻っちゃうよ」と気になる。もっともフェラーリの最近のモデルなど、件のスイッチはもはやステアリングハンドル内に内蔵されているくらいだから、レバー状のスイッチにしてくれただけでもまだ良い方なのかもしれない。
制動性能は必要にして充分。試乗車は460kmほどすでに走破しているが、ホイールはほんのりブレーキダストで汚れていた。効くブレーキの証として、むしろ歓迎すべきである。本当に小気味よく水平に停まる。FF車歴の筆者は、つんのめる制動に慣れ切っているので、この制動・停止動作は新鮮だった。ちなみにdモードとnモードでは制動制御も異なるようだが、残念ながらそれを確認できるようなコースではなかった。
FRと言えば素直な旋回性能だが、前述の通り試乗コースは住宅地中心。すっきり爽やかなコーナリングマナーを味わうまでには至らなかった。1ヵ所だけHさんが「ここで旋回性能を味わってください」というコーナーがあったのだが、気合いを入れ過ぎたかギクシャクした旋回になってしまい恥をかいた。電子制御によるパワーステアリング(EPS)は特に気になる動作はなく、全体的にニュートラルと感じた。が、繰り返すが住宅地メインの試乗なので、全貌はよくわからない。
<なんとなくまとめ>
同乗してくださったHさんとは初対面なのだが、なかなかに面白い人物。「ジュリアを買ったらどこを走るのが一番気持ちよいと思いますか?」と訊いてみたところ、「今までのアルファのイメージで考えると、ちょっと違うと思うんです」と。要はサーキットや峠でタイヤをギャン泣きさせるような乗り方はジュリアには似合わない、と。高速道路をマイペースで走るのが似合っているというわけだ。実はもっと面白い返答だったけど、ここに書けないので意訳していることはご承知おきいただきたい(笑)。ご本人も運転を楽しむタイプのようだから、セールスもいろいろとご苦労があるものと推測する(笑)。増してや筆者は、明らかに客じゃない(笑)。
ジュリア スーパーは大人のセダンたるべく設えられたはずだ。スポーツカー的キャラクターはヴェローチェやクアドリフォリオ(もはやヴェルデは付かない)に、より色濃く反映されていると思われる。余談だがクアドリの試乗でレースモードを試した顧客が事故を起こした例が全国で数例あるらしい。おかげでFCAJから「試乗時のレースモードは禁止!」とお達しが出ているそうな(笑)。実際筆者も久しぶりに「安全運転を心掛ける」「事故を興したら実費弁償」の誓約書を書かせられた。並行輸入でいち早くクアドリを購入した人がいつの間にかこれまた並行輸入のステルヴィオに乗り換えていて、「どどどどうして?」との問いに「ジュリアクアドリ、ありゃ速過ぎて危険!」と答えたという噂話も聞いた。おそらくジュリアはモデルレンジの中で味付けがかなり極端に異なるのだろうか。
ともあれ、より上位になればなるほどスポーティー風味は強まるようだから、スーパーの立ち位置は語弊を恐れずに言えば「ダンナ車」である。クラウンで言えばロイヤルサルーン。だからFRのすっきり爽やか系セダンをのんびり走らせたい…となると、R17ホイールを履く受注生産の「素」のジュリアこそが実はベストジュリアという可能性はある。事実、素ジュリアの受注はじわじわ増えているのだという。ヘンタイのみなさんはわかっておられる(笑)。
本国仕様ですらヴェローチェに6MT仕様がない以上、筆者が購入するならクアドリフォリオのLHD/6MTモデルを並行輸入するしかない。もちろんそんな金はない。さようならジュリア。縁無き衆生が好き勝手書いてすみませんでした。よい人と結ばれますように。
ジュリアと関係ない余談その1
Hさんに「2020年以降は、アルファロメオ全車両のメインテナンスは正規ディーラーでしか請け負わない(フィアット/アバルト店舗ではメンテナンスは受注すらできない)」という話は本当ですか?と訊いてみた。「一部のメディアでそういうことが書かれていることは知っているが、FCAJからは何も通達は来ていない」とのこと。同時に「『一部メディアで○○の報道がありますが、方針はまだ決まっておりません』などのプレスリリースを出した後に、やっぱりそのとおりになるなんてことがよくあるブランドですから」と笑っておられた。「火のないところに煙は立たない」系の話かもしれない。
ジュリアと関係ない余談その2
Hさんはアルファロメオ仙台泉のベテラン営業さん。この日、試乗の後卸町イデアルさんにも顔を出してきたのだが、「Hさんの同乗でジュリアに乗ってきましたよ」とTさんに言ったら、「Hですか(大笑)」という反応だったので、実はHさんはかなりの逸材かもしれない。オフィシャルスタッフブログのHさんのエントリーを読んでからジュリアの試乗に同乗してもらうと、より味わい深いかもしれない。
その後県民の森をちんたら走ってきた