2017.07.31 Monday
【試乗記】シトロエン NewC3・これは売れますよ、という特殊な見解
シトロエン C3に試乗した。C4カクタスの日本導入ではミソが付いたが、相変わらずあのエアバンプと呼ばれるナゾの緩衝材(笑)をまとったエクステリアは魅力的だ。幸か不幸か、C3というBセグメントど真ん中のクルマであのルックスを(ほぼ)初体験する日本のユーザーはある意味ラッキーなのかもしれない。なぜならエンジンもトランスミッションも、非常にこなれた組み合わせのものが初めから用意されるからだ。 この日はまったく別の要件で(株)イデアルさんを訪れたのだが、そりゃもう引きも切らぬ試乗試乗試乗の嵐だったC3を見て、「そう言えば今日(7/29)がデビューフェアじゃんね」と欲を出した次第。まずは外観を見てみる。アーモンドグリーンなる固体色のせいか、はたまた角は丸められているものの全体的には角張った感じの外観のせいか、SUV色が強く感じられる。プラットフォームはプジョー 208と共有らしいが、あちらはネコ科の動物よろしくスポーティーな外観だが、こちらは横幅も上背もひとまわり大きく感じられる。実際全長は208よりも長い。まずこの「そこはかとなくSUVっぽい」感じが売れる要素1。 全長・C3:3,995mm/208:3,975mm ホイールベース数値・C3:2,535mm/208:2,540mm 運転席に着席してみる。シートとハンドルのオフセットはない。あったのかもしれないが、無視できるレベル。ペダルオフセットは、あと少し全体的に右に寄っている方がいいけれど、まぁこれも無視できるレベル。チルト&テレスコの調整代は充分あって、背を立て気味にシートを調整するとピタッと運転姿勢が決まる。残念ながらC3(と初代のDS3)はこうは行かなかった。姿勢は気持ちよく決まったが、シートそのもののホールド性はさほど高くない。ただしそのことを嘆くのはお門違い。コクピット周辺を見渡すと、ふたつ目に入るものがある。ひとつはダッシュボードのソフトパッド部分。シートやハンドルの一部と同じアクセントカラー(テップ・コロラド。デビューエディションだけの特別色)が施されており、黒基調ではあるが、車内は華やかである(それに比べて208も308もお通夜っぽい)。もうひとつはフロントドアの引き手。高級ブランドのトランクケースよろしく、革(合皮?)の太い引き手がこれも目のアクセントになっている。そして208比延長された全長のおかげか室内は広い。「如何にもフランス車っぽい色の遊びとルーミーな室内」が売れる要素2。ただし、Aピラーの傾斜はキツめで、ボディとAピラーが交わる点は運転手からけっこう遠い。これによって右折時の(試乗車は右ハンドル車)視界の妨げになる可能性はある。同時に屋根位置は低く、前席外側のヘッドクリアランスはギリギリ。不用意に乗り込むと何でもないところで屋根に頭をぶつけそうになるほどだ。FJクルーザーやイヴォークの影響だろうか。塹壕感のある外観を優先したのかもしれない。 全高・C3:1,495mm/208:1,470mm さて走り出してみる。1.2lピュアテック3気筒ターボエンジン+6EATは現行DS3、208でお馴染。こいつは滅法良い。まずエンジンのパワーバンドがそれなりに広く、2,000〜5,000rpmまでトルク感はほぼ直線的にがんばってくれる。少なくとも街中や空いている郊外で加速に不満を持つことはあり得ない(ラ・フェラーリやアヴェンタドールに乗っている人は別)。片側3車線の仙台バイパスで直進車待ちの青信号右折を試してみたが、立ち上がりこそ純MT車的ダイレクト感は薄いものの、「あ、間に合わない」とか「あ、向こうを待たせてしまってる」といった不安や恐怖を感じることはない。普及しきったところであれこれ言われているダウンサイジングターボも成熟しきった感がある。もちろんそのエンジンでうまいことやってくれているのが6速ATのEAT6で、筆者はオートモードで、同乗のあおさんはマニュアルモード中心で試乗したが、敢えて言おう。オートモードの方が快適であると。あおさん曰く「(マニュアルモードでも)大してエンジンブレーキ、効かない」だそうなので、ますます制動はブレーキ頼みだが、プジョー・シトロエンの滋味溢れるブレーキのバランスの良さは今更言うまでもあるまい。ただし右ハンドル車では7〜8掛けかもしれないが…(その点LHDの308GTiのブレーキは絶品だった)。 虎視眈々と出来栄えを伺っていたアイドリングストップは、所々思い出したようにエンジンを落すが、エアコンを盛大に使っているからか、今回のこの右折タイミングでは休止しなかった。でもよほどのことでもない限り、このアイドリングストップ機能の再スタート時間に不満を持つこともないだろう。筆者が買ったら恐らくOFFにはしないと思われる。 もちろん旋回性能は高い。我々のように欧州車に乗り慣れてしまうと「まったくもってふつー」な回頭性なのだが、同クラス日本車から乗り換える人にとっては、異次元クラスのリニアリティだと思う。街中・郊外の道路では特に大きくロールするわけでもなく、若干ボディ全体の長さを意識しないでもないが、最低限のヨー運動で旋回を終え、コーナリングが7割終わったところからの再加速の気持ちよさは前述のとおりである。 しかしそれにしても、わざわざ文章の段落を替えてまで強調特筆したいのは、NewC3の足さばきである。試乗では平滑度の高い舗装路から津波被害の復旧のために工事車両の往来が激しい区域まで走ることができたのだが、アンジュレーションはもとより、荒れた舗装、極端に言えば舗装割れの穴を乗り越える時などの収束の速さには、思わず「おおっ!」という感嘆の声が出るほどである。かなり粘っこく路面を掴もうとする足のセッティングと、拡大されたボディサイズから想像するに、コイツは高速道路での挙動もまったく不安がないだろう。この「加速・制動・旋回・ロードホールディングをワンセットにして、シトロエンというブランドに期待する乗り心地の実現」が売れる要素3である。 というか、この売れる要素3はプジョー 207とプラットフォームを共有する先代C3以降の乗り心地の典型であろう(AL4とかETG5搭載車は加速については歯がゆかったかもしれないが)。だからプジョー・シトロエン車から引き続き乗り継ぐオーナーにとっては特筆すべきことではないかもしれない。安心材料にはなるだろうけれど。しかしポロ、ゴルフを筆頭としたドイツ勢B・Cセグメントや、日本のワンボックスなどから(清水の舞台から飛び降りるつもりで)乗り換えるシトロエン初心者には、逆にもっとも効く要素だとも思う。しっかりしているのに緩い。緩いのに安心する。ゼロかイチかという「きっちり剛性感」を売りにするドイツ勢では味わえない懐の深さだと思う。 走りに重要じゃない要素について書くと、まず相変わらずインフォテイメント系が…(笑)。例によってタッチパネル式ディスプレイにまとめられてしまったクライメートコントロールやオーディオ、車両セッティング機能が、はっきり言って運転中にきちんと操作できない。無粋なことを書くけれど、運転中の携帯電話使用で切符を切るなら、警察はナビやこれらタッチパネル式コントロール方法を規制すべきだと思う。ちなみにボリュームコントロール、ハザードランプなど最低限の物理スイッチはある。あ、あと本当にどーでもいーことですが、純正ナビは搭載されてません。けどポン付けもできない。営業さんは大変だと思う。ま、でも輸入車に乗ろうって人がナビの有る無しでガタガタ言うのはお門違いであることは断言しておく(笑)。 他にもグローブボックスが本当にドライビンググローブくらいしか入らないとか、広大なドアポケットの中にドリンクホルダー的な仕切りはないとか、そういう日本車では考えられない部分もあるにはある。が、そんなことは前述の売れる要素1〜3の前では塵に等しい。もう一度売れる要素をおさらいしてみよう。 売れる要素1:個性的で、なおかつSUV風味漂うエクステリア 売れる要素2:お洒落の国フランスっぽい色遊びとルーミーな車内 売れる要素3:走る・曲がる・止まるの高次元バランスとフランス車らしい緩いが粘る足さばき こう列挙してみたが、やはり一番の売れる要素は「個性的でSUVテイスト」だろう。とにかくパッと見でカッコいいだけでなく、視界の端に捉えたら二度見してしまうこと必至である。話を訊くとイデアルさんのスタッフも納車された時は相当盛り上がったらしい。「かっこいいじゃん!」「これはいいね!」「こりゃ売れるぞ!」と。ところがひとしきりワイワイ盛り上がったあと、あるスタッフさんが「そう?これ、一般人が見たら相当ヘンじゃない??」とぽつり。一堂ずこー。ま、確かに軽自動車やオーリスなどと競合するとも思えない(笑)。しかし実直かつ個性的な自動車を求める層は確実に存在する。そんな二律背反、クリアできるわけないじゃん!と叫ぶあなたは、ではこの試乗したデビューエディションで車両本体が226万円という事実をどう咀嚼しようと言うのか。 シトロエン NewC3、売れなきゃオカシイという見解は特殊なものなのか、そうでないのか。ぜひ一度試乗してみてほしい。そして買わない理由を三つ挙げてほしい。相当な難問だと思いますよ、ええ。 |