今の部署に異動して以来、9月はままならない。忙殺されている。だがそんなくたびれ具合だからこそ、走りに行きたい。宮城県亘理町に鳥の海という港と海水浴場がある。当然のことながら東日本大震災で壊滅的被害を受けた。その海水浴場のすぐ裏に、町営温泉施設があった。震災の日は従業員がそこで津波をやりすごし、多くの命が助かったという。営業を再開していたのは知っていたが、2016年になって、その経営をホテル業者に譲ることをたまたま新聞で読んだ。それで思い当たったのだが、あれ以来筆者は鳥の海を訪れていない。2011年5月に津波の被害をこの目で見ようと仙台空港付近から鳥の海まで走ったのだが、道路がぐちゃぐちゃで近づけなかったのだ。
2011.05.03.「仙台港、仙台空港付近を見に行く」
2011年に近づけなかったということは、つまり2010年以前に訪れて以来ということか。6年ぶり…か、もっと。「鳥の海海水浴場」は仙台市街地から4〜50kmという距離なので、免許取りたてから2台目3台目とクルマを乗り換えるくらいキャリアを積んでも、ふらっと走りに行くのにちょうど良いポイントだった。何度も友人と深夜に意味もなく走りに行ったものだ。鳥の海、今どうなってるのか。くたくたではあるけれど、とにかく頭をリセットしに行こう。
平日の午前中に仙台市街地を縦断するわけで、道行きに楽しいことはあまりない。稲ももはやあとは刈り取るだけと言った風情で、写真を何枚も撮ったが後から見返すとどれがどこの写真かわからない(笑)。
こんな感じの景色
さてどうやって鳥の海に行くか。仙台空港付近まで来て、無難なのはK10を南下するコースだが、本当に馴染み深いのは海岸線ぎりぎりを走るK125である。万一整備されてたらもうけものと思ってひとまずそちらに向かったら、見たこともない広大な公園が現れた。「千年希望の丘」という再整備で生まれた広場で、岩沼市のウェブサイトによると「沿岸部に多重防御の新しい社会共通基盤」だそうだ。たいへんきれいだが、誰に向けて作ったものなのか、人の顔が見えない場所というのが第一印象。こないだトーマスさんが訪れていたのはここか…。
丘に登って西を向けば仙台空港
公園内をうろうろ歩いていると、そのK125が横を走っているのだが、大型ダンプカーがひっきりなしにすれ違い、工事用車両も上下に盛大に揺さぶられている。未舗装の上にあちこちに深そうな水たまりがあるのだ。とてもじゃないが「ローダウンしてない」MiToでは踏み込めない。あきらめてK10を南下。鳥の海へ。
5年半前に引き返した道路は今も舗装工事中…って5年も工事しているわけではなかろうが、なんたる偶然。迂回路に次ぐ迂回路でようやく鳥の海漁港、そして「わたり温泉鳥の海」へ到着。だがやはり道路状況は良くない。海水浴場まで辿り着けない。
その辺をうろうろして、ひとまず件の温泉施設へ。11時前で昼ご飯には早いが、この季節に亘理に来たら選択肢はひとつしかない。そう「はらこ飯」である。はらこ飯とはしゃけの切り身を醤油・日本酒・砂糖などで煮て、その煮汁でご飯を炊き、そのご飯を丼によそい、煮たしゃけの切り身といくらをかけた宮城県南在住者のソウルフードである。つまり家庭の数だけレシピがある、というやつだ。秋しか食べられない。わたり温泉鳥の海に入ると、なんと食堂は10:30から営業していて、期間限定でメニューははらこ飯のみ!渡りに舟で(洒落か!)さっそく入店。すぐにお盆が出てくる。まだ11時前である。
4階のその食堂から海を見ていたら、海水浴場の方に歩いていく親子連れが見えるではないか。あ、なーんだ、あそこから行けるのか!ということではらこ飯を早々にかき込み、海水浴場を目指す。
親子連れどころかパラグライダーまで!
実際に浜辺に立ってみると非常に空しい。今年も海水浴場は営業できなかったろう。演歌を大音量で流すという「どローカル」な海水浴場だったが、あれはあれで味のある海水浴場だった。今は流木やゴミが散らかる無人の浜辺だ。新設された防潮堤だけは美しい威容を誇るが、人が立ち入る隙がない。津波被害を受けた土地は、どこも似たり寄ったりのこんな光景が続く。この5年くらいで筆者は政治を真剣に考えるようになったが(遅い)、真剣になればなるほど政治への関心を失っていく。これは恐ろしいことだ。為政者に限らず、誰も人の顔を見ていない。
念願の鳥の海だったが、どうしても元気にはなれなかった。そのまま亘理町を横断して角田市へ抜け、K52で村田町経由で帰ってきた。しかし、亘理町にお金を落してきたのは良いことだったと思う。
角田市内のK28を北上して村田を目指す
川崎町の定点観測地点。
いつもは南を向いてリアから撮っているけど、
北を向いたフロントの絵は初めてかも
5時間/124km