2014.02.26 Wednesday
試乗記・良いヤツなんだが…プジョー 2008
プジョー 2008に試乗した。ディーラーでの「ちょい乗り試乗」だったので多くを語ることはできないが、それでも感じたことを書いてみる。 日本に於けるプジョーブランドの最重要車種(と筆者は考える)208のシャシーを使ったクロスオーバーモデルが2008だ。ライトSUVと言えば良いのかもしれないが、如何せん乗車した感覚は「ちょっと目線の高い208」と言うのが正直なところ。取り立ててオフロードがどうのこうのというクルマでは無い。コクピット周辺の眺めも208とほぼ同じ。i-Cockpitと呼ばれる楕円形ステアリングハンドルの上にメーター類が配置されるのが特徴で、このコクピット周りのデザインは、別に運転しにくくは無いが、運転しやすいわけでも無い。 念のために書くが、筆者は208シリーズは本当に素晴らしいクルマだと思っている。特に208GTiは知人が購入したら本気で羨ましがるだろう。雑味を排した素直な乗り味。不必要に強調された機能は無く、「走る・曲がる・止まる」が高次元でバランスした良心的なシリーズだと考えている。2008もその流れを汲んで、すっきり爽やかな乗り味である。 マイナーチェンジが施された208共々、2008に於けるトピックは、PSAグループイチオシの1.2L3気筒エンジンとETGと呼称するオートマチックモード付き5MTである。どのレビューを読んでもこのクラッチペダルレスの5MTのことには字数を割いている。筆者も一番気になった点であるので、まずこのトランスミッションのことを書こう。 残念ながら、やはり日本に自動変速MTは馴染まないと思う。オートマチックモード時の変速時に空走感があるのは事実であり、トルコンATやCVT「だけが」オートマチックトランスミッションだと考えている大多数の日本人には、この空走感を大いなる違和感としか捉えられないだろう。実際このETG、フィアットのデュアロジックを知っている身としては、どうも制御がぎこちない。と言うか、「はい、変速しますよー」を伝えるのが下手だ。改めて書くのもナンだが、自動変速MTとはクラッチを切る・繋ぐという左足の動作を、機械によって自動化しているに過ぎないのだから、ギアシフトのタイミングでアクセルを戻すのは当然の動作なのだ。デュアロジックはドライバーに上手く「はい、今からクラッチ切りますよー」を伝えてくれた。だから30分も乗っていると、アクセルペダルの踏み込みだけでシフトアップをコントロールできるようになってしまう。ETGは黒子に徹しようとしているのは感じるが、その分アクセルワークのきっかけを感じにくく、結果的にどうしても空走感を覚えてしまう。 筆者が想像するに、これは1.2L(82ps/5,750rpm)の新エンジンとのマッチングも良くないのではないか。このエンジン、仕事はきちんとこなすが「おもろいヤツ」ではなく、最低限の仕事はこなすが呑みには付きあわない同僚みたいで、キャラクターを感じにくい。特に燃費なんざどーでもいーと考える筆者のような者には、魅力が伝わりにくい面があろう。実際そろりと加速するような場面では空走感はほぼ感じなかったので、機械動作が美味しい領域は実は低速域と言う可能性もある。渋滞の時などは重宝するかもしれないし、極端な話、運転が得意ではない人が運転する分には、そもそも問題として認識されないとも言える。また充分に加速し切って高速域に一旦入ってしまえば、このエンジンとトランスミッションの組み合わせによるストレスを感じにくいかもしれない(今回はそこまで試せていないが)。 しかしそのように援護してみたところで、2008を奥様専用のセカンドカーとして買う人や、ラリーシーンで伝説を築いている真っ最中のプジョーブランドのクルマを、燃費重視のトロトロ運転するために買う人も、(皆無では無いかもしれないが)まずいない。従ってブランドイメージとクルマの美味しい領域がズレている可能性があって、それはつまりあまりよろしくない事態である。 もちろんプジョーでこのクルマの開発主査になった人だってそんなことはわかっていると思う。こういう味付けに、あるいはこういう組み合わせにせざるを得なかった理由は、恐らく一(いつ)にかかって「低燃費達成」のためであろう。 実際オートマチックモードをあきらめ、パドルで自分の思い通りのタイミングでギアをシフトさせると、2008は極めて素性の良いクルマであることが実感できる。先述した「諸機能が高次元でバランスしている様子」がひしひしと感じられるのである。特にシートの座り心地とホールド感がずば抜けて良いのはプジョーの伝統で、アルファロメオにも見習って欲しい部分である。またボディ剛性が高いことを直感できると同時に、クルマ全体が非常に軽く感じられるのも大きな美点である。208ゆずりの車両感覚の掴みやすさも同様。早い話が速度が乗っているとめちゃくちゃ楽しいのだ。 と言うことで2008、5ETGの動作に違和感を感じなければ、すこぶる良いクルマである。おそらく源流の208と同様に、MTで乗ると楽しくてたまらないクルマであろうこともひしひしと感じてしまうが、そう考えるプジョーマニアや輸入車マニアではなく、これまで縁が無かった人々を取り込むべく送り込まれたモデルなのであろう。従って無い物ねだりはあまり意味が無いのかもしれない。 叶うならば、MTじゃなくても、1.2Lエンジンの美味しい部分だけを抽出してくれるような動作を仕込まれたATでも楽しさは変わらないと思う。実際PSAグループにはようやく実装されるようになった6ATがあるじゃないか。ぜひ搭載して欲しい。多少公称燃費が高くなったって、もうETG搭載車でアリバイは作ったし、エエじゃないかエエじゃないかエエじゃないか。 |