プジョー 5008に試乗する機会を得た。セッティングしてくださったあおさんと無茶な試乗を許してくれたプジョー仙台に感謝である。先にエントリーしたとおり、この試乗は
MiTo OFF#3のフィナーレであって、いつもの試乗とは違う、みんなでわいわい言いながらの少々浮かれた状態での試乗であることを最初にお断りしておく。
当日は錚々たるメンバーの中、筆者が運転を仰せつかったので、運転してみてのあれこれについてまずは書こうと思う。前述のとおりOFF会の流れで行った試乗であり、プジョー仙台の営業さんも含めて大の大人が6人も乗り込んでの試乗であった。にも関わらず5008は闊達な挙動を示した。もちろん初期の加速は「よっこいしょ」という印象ではあるが、それもステアリングを握りアクセルペダルを踏み込むからこそ感じるもので、恐らく助手席、後部座席の乗員は「もっさり感」をあまり感じずに済んでいると思われる。
1.6Lのガソリンエンジンと最近徐々にAL4を駆逐し始めた6ATの組み合わせ。この6ATが絶妙な仕事をしている印象で、小刻みに変速を繰り返しながらエンジンの活発な部分だけを提供するようにがんばっている。立ち上がりのアクセルレスポンスは確かに緩慢な印象があるものの、慣れてしまえば気にならないレベルだと思う。それにそんなにリニアな加速を望むなら初めから5008など選ぶべきではないという話だし、大人が6人も乗っていたのだ。むしろ立派だと思う。そういう苛烈な乗車条件でもブレーキは過不足無い自然な制止ができるし、市街地を90度に曲がるレベルではコーナリングマナーも意外なほどロールせずやり過ごしてしまう。もっともコーナリングマナーについては大人6人乗車がプラスに働いている可能性もあるが、硬すぎず柔らかすぎず「おお!ネコ足!」と後席の誰かが思わずつぶやいてしまうしなやかさである。
さて居心地はどうなのかということも書いておく。まずコクピットは3008を引き継ぐもので、切り立ったセンターコンソールのクルマが増えている昨今、○008系の緩やかなスロープで運転手を取り囲むデザインは新鮮だ。残念ながら(という表現が正しいかどうかわからないが)3008のインテリアで一番のキモだったトグル風スイッチ類は5008には無い。スイッチ類はごく一般的なデザインと配置である。
これは3008のスイッチ群。
シビレル
例によってシートの座り心地は素晴らしい。208ほどビタッとホールドするタイプではもちろん無く、背面などは薄さを感じてしまうのも事実だが、長距離も疲れなさそうな、ほど良い硬さである。ちなみにシートの動作はノンパワーアシストでシート生地はファブリックである。筆者としてはこの2点も加点要素だが、人によってはレザーシートを選べないことを残念に思うかもしれない。繰り返すが座り心地は素晴らしい。
7シーターが売りなので、セカンドシート、サードシートについても触れた方が良いだろう。セカンドシートは前後の調整代もそれなりにあり、3座独立なのでこの手のSUV、ミニバン系の中では素晴らしい座り心地だ。残念ながらサードシートは少なくとも大人は無理。セカンドシート下に足を潜らせることができないため完全に体育座りである。またセカンド、サードともリクライニングやスライドの操作が独特で、慣れないと少々苦労しそうだ。特にサードシートはスライド、リクライニングともできずほぼ固定で、ヘッドクリアランスも170cmの筆者の場合でゼロだった(つまり天井に頭が付いてしまう)。本気で6人目以降も快適に座るならメルセデスのVクラスとかクライスラーのTown & Countryくらいまで行かないとダメだということがわかった。
はい、V-Class
はい、Town & Country
307SWに7年乗っていた筆者として感慨深かったのは、セカンド、サードシートの5座全てが取り外すことなくフルフラットになることだ。収納したシートのでこぼこを隠すためのギミックは少々ぎこちないのだが(笑)、本気で畳が運べる程のスペースが生まれる。また助手席も畳むことができるので、1800mmを超える長尺物も積める。307SWは運転席、助手席以外のシートが全て外すことが出来、それはそれで快適だったが、外したシートは重いし、どこに片づけるかという別種の問題も発生したものだ。
よいしょ、よいしょ
おおお!
フルフラットになったキャビンを見たみんなで「泊まれる泊まれる!」と大喜びしたのだが、もちろんそれも楽しいと思うが、5008の本当のうま味は「家族グルマなのに運転しがいがたっぷりある」ことではないだろうか。こんなミニバンクラスの巨体なのにちゃんとプジョーの乗り味になっていることこそ5008の最大の魅力だと思う。
以前助手席に乗せてもらった某国産のミニバンは、硬くて硬くてお尻が悲鳴を上げそうな乗り心地だった。加速も暴力的で、要はゲルマン系乗用車を曲解したような味付けだった。しかし筆者はミニバン的なクルマに求められる乗り心地はそういうものでは無いと考える。5008は同乗する人に安楽な環境を、運転手には必要最低限以上のフィードバックを与え、クルマを操縦する楽しみが十分担保されている。この最後の項目がミニバンでは最初に犠牲になるところだと思うが5008は違う。「フランスのお洒落なミニバン」などという惹き句が完全に虚像であることが消費者に浸透してしまった今、素っ気ない内装やシートのぎこちないフルフラット化などは完全にネガティブ要素であることは筆者ももちろん理解している。しかし運転する人の主権が確保されているという意味で、少なくとも国産車とは全く違う魅力があると言える。しかも安い方(Premium)なら車両本体価格は300万円。プジョーを買う時に値段のことはあまり考えないと思うが、満漢全席みたいな国産ミニバンと秤にかけるユーザーもいるかもしれないので、この価格はそれなりにがんばっていると筆者は思う。
高い方(Cielo)についてる
ヘッドアップディスプレイ。
確かに視認性抜群