右フロントドアの純正スピーカーが突然寿命を迎えたことをきっかけに、急きょ着手した「MiTo音響環境改善計画2013第1期」が大勝利と共に完了した。前々回は大勝利宣言、前回はプラン全体について説明したが、今回は設定した達成目標3点
○生楽器がナチュラルに聴こえること
○イコライザー(EQ)やDSPなどで低音域を不必要に強調する必要が無いこと
○音像が立体的であること
について1点ずつ詳述したい。
目標1「生楽器がナチュラルに聴こえること」
生楽器がナチュラルに聴こえるためには、スピーカーの解像度が高い必要があると思う。この問題はスピーカーだけの責任ではなく、実はメインユニットのコンバーターやアンプの能力も大いに関係することではあるが、今回はこの点には触れなかった(単純にスピーカーだけを交換した方がその実力をきちんと測れると思ったので)。しかしこの「単なるスピーカーのリプレイス」だけでこの点が大いに改善されたことを強調したい。自分の好む音楽(の音質傾向)にフィットしたスピーカーに交換するだけで、聴き慣れた曲ですら新鮮に聞こえるという幸せ。
一方致し方ないことだがFocalは音が硬めである。恐らくエージング中であることを差し引いても硬い。弦楽四重奏やクラシックギター独奏などを聴くのには適さないと思う。その代わり音の速度が速い(正確には早く感じるということだろうけど)。疾走感が必要な音楽には相応しい。当然のことながらアメリカンロックを聴くのに最適と言える。聴かないけど(笑)。
目標2「イコライザー(EQ)やDSPなどで低音域を不必要に強調する必要が無いこと」
低音域を不必要に強調しないということは、メインユニットのEQやDSPをスルーすればいいんでしょ?と思われがちだが、そういうことではない。例えば現MiTo(QVのBOSEシステムを除く)オーナーで、日本国内のディーラー純正オプションのcarrozzeriaナビユニットだけでシステムを組んでいる方は、メインユニットのEQもVSC(carrozzeriaブランドのDSP的機能)もラウドネスもOFFにしていただき、左右前後のフェーダーをセンターにしてみていただきたい。要はあらゆる電子加工機能を全部OFF、スルーしていただきたいのだ。するとどのような音源を再生しても、高音域も低音域も全く足りないはずだ。この携帯ラジオでAM放送を聞いているようなショボショボの音をどうにかすべく誰もがEQで低音域と高音域を強調し、場合によってはラウドネスやVSCでさらにドンシャリ傾向の音にしていることだろう。いや、せざるを得ないのだ。だがしかし、この圧倒的な再生能力の不足は純正スピーカーに拠るものだと今なら断言できる。少なくともディーラーオプションとして選択できるパイオニアcarrozzeriaブランドのナビユニットは、ある程度以上の音を出している(純正BOSEシステムの音は残念ながらきちんと試聴したことが無い。きっと良い音なんだろう、最初から。ふん)。
取り外された純正スピーカー
今回の計画の基本骨子は、K店長と筆者で意見を交わしながら(K店長のご意見を拝聴していただけとも言えるが)、基本的には「信号は無加工な方が結局音が良い」と確認したところからスタートした。キャパシティが大きいスピーカーを選択することでそういう「過剰な信号処理」を回避できると考えたのである。「キャパシティが狭いので、あらかじめ盛った信号を流し込んで帳尻を合わせる」のと「キャパシティがでかいから、流し込んだ信号が欠落せずにそのまま鳴る」のは天と地ほども違う。まぁ実際には完調のFocal 165CVXでもEQに頼らずに最適化することは難しいと思うが。
そもそもEQなどの電子機能で音質を変えていくと位相は狂っていく。特に後述する「立体感」を達成したいとなれば、なるべく使わないに越したことはない。スピーカーそのものの音色(=クセ)が自分の好みの音であれば、電子機能に過剰に頼ることなく好みの音像を作れることがわかったのは大きな収穫である。
また自宅内やスタジオなどで使われるスピーカーと、音響的に過酷な環境である自動車車内で使われるカーオーディオ用スピーカーとでは、仕事が異なるんじゃないかと筆者は思う。カーオーディオという分野に於ては、「理想のスピーカー」とか「理論的にはこうあるべき」のようなきれい事だけでは心躍る音響環境にならないと思う。スピーカーで「色が付く」ことを肯定的に考えられるのはリスニング用スピーカー全体に言えると思うが、カーオーディオでも同じだと思う。
目標3「音像が立体的であること」
音像が立体的であるというのは抽象的な話である上に実現が難しい。今回はデッドニングで余計な共鳴を抑え※、音がひたすらスピーカーの前に出て来るように図った。またFocal 165CVXという同軸スピーカーを選択し、思い切ってツイーターもリアスピーカーもキャンセルしたのはタイムアライメントという要素を無くしたかったからである。EQやDSPと同じく、各スピーカーから耳への音の到達時間差は位相変化になって信号を滲ませる。その現象を積極的に活用することで得られる効果もあるにはあるが、タイムアライメントそのものを「活用」まで持っていくノウハウは高度なものである。同軸スピーカーの利点は、中低域と高域にホーンは別れてはいるものの同じ1点から音が放射されることだ。ステレオ1ペアの同軸スピーカーだけで鳴らすというのはシンプルなプランである。ゆえに思ったとおりに鳴らなくても問題点の洗い出しが楽である。
※確認したところ、デッドニングも全ての穴を塞ぎまくってとことんデッドに!的なものではなく、鳴らしながらここは塞ぐ、ここは開けておくと言う風に、チューニングしながら作業していただいたようだ。ドアにスピーカーハウジングの役目を負わせることを考えたデッドニングということらしい。素晴らしい。
音エネルギーをスピーカー周囲に散らさないようにデッドニングし、スピーカーの数を最低限にすることで定位のはっきりしたクリアな音を出すことができた。電子的加工を最低限に絞ったピュアな信号をキャパシティの大きなスピーカーで鳴らすことで、音像を立体的に作ることができた。工夫した取り付けのツイーターが付いている同軸スピーカーを使うことで、音像そのものも耳に近いところに作ることができた。
これですよ。素晴らしい。
実はFocal 165CVXはネット通販で購入すると1ペア2万円しない。現状で筆者はかなり満足している。次回は本シリーズ最終回。高い次元に到達出来たがゆえに見えてきたさらなる改善のヒントについて書いてみたい。