プジョー 208シエロに試乗した。
ぶい〜ん!!と口で効果音を演出しつつ
室内で勇ましい筆者
207の素晴しい乗り心地や、同じ車台を共有しているシトロエン DS3の乗り心地がやはり素晴しいことなどから、筆者の中のPSAグループ車両の評価は高まるばかり。しかし唯一納得できずまた許しがたいある一点が、207の(数値的にと言うよりも)感覚的な巨大さであった。
そこに208である。実車を見ると数値以上にコンパクトに見えるという、現代に相応しいアップデートを果たした。やっぱりこれですよ。山椒は小粒でぴりりと辛い。筆者的に208のツボは
・先代比ダウンサイジングしたエクステリア
・ちゃんとMTモデルが最初からラインナップされてる
のふたつ。同時に売れ線のはずのシエロやプレミアムには相も変わらずAL4(4速AT)が搭載されている点は、「オートマ?んなこと言ってくんのはどこの国だ??ジャポン?またか!いいからアレ載せとけ!」とその場しのぎにAL4が搭載された感満載なことも見どころと言えば言える。
さて乗ってみた。シエロだからATである。それもあって乗り心地は正直言ってDS3と大差無い。直列4気筒自然吸気1.6L、全長もほぼ同じ(車重は208が100kgほど軽い)なので加速からコーナリングのマナーまでそっくりである。だが格段に「腰で曲がってる感」があるのは超絶に気持ち良いシートのおかげだろう。上下半身ともオーダーメイドかと思わんばかりのフィットっぷり。市街地を単に数キロ走っただけなので(しかも半分は家人も運転したので助手席体験)コーナリングマナーを云々言える程では無いのだが、着座位置と視点の関係まで含めて、動的性能に関してはDS3と同じ印象である。だがデザインが新しいことや作り込みの上手さから、DS3よりも格段にコンパクトな印象である。「腰で曲がってる感」もその辺に秘密があるのかもしれない。何しろDS3と全幅もほとんど同じなのだから。「驚きは無いが基礎力の高さは実感できる」というのが乗ってみての第一印象だが、これはDS3から乗り換えた(だってプジョー仙台にはDS3に乗って行ったのだから、文字通り、だ)からこその印象かもしれない。軽自動車やヴィッツ、フィットあたりから乗り換えたら「腰を抜かす高基礎力」に思えるかもしれない。
一転してインテリアは微妙。インストゥルメンタルパネルと敢えてハンドルより上に見えるように設えたメーターパネルは素晴しい。組み込み精度など「プレミアム」を売りにしているDS3よりもわずかに上かもしれない(その辺はDS3オーナーの家人も同意見)。だがドライバーの視点に入るそれ以外の部分はコストダウンの対象になった感が相当ある。筆者が特に驚いたのはAピラー内側。ここだけまるで取ってつけたように純白のカバーが取り付けてあり、まるで出来の悪いトヨタ車である。内装色も黒だけと言うことで、フランス車らしい色の遊びはどこへ???という思いはある。ちなみにショールームにあったプレミアムの方は内装色がグレーで、これは日本には存在しない組み合わせなのだそうだ。この組み合わせが欲しい人は今からプジョー仙台のスタッフに「売ってくれ攻勢」をかけ方が良いだろう。でもそのグレーが黒よりも魅力的か?と問われると「微妙」とお答えしておく。あくまでも希少な組み合わせということで。
ハンドル越しにメーターを見るとこんな感じ
ステアリングハンドルが真円でないこともトピックか。前述したようにコーナリングの性能や挙動については未検証なので、楕円ハンドルが良いのか悪いのか判じかねる。どうやらメーターパネルがハンドルの上に見えるデザインを優先した結果に思えて、そうなると2代目プリウスと同じ愚行という気もする。ステアリングハンドルの挙動そのものは電子制御だから「超」が付く薄味である。ただし6MTでタイヤサイズも17インチにアップするGTグレードでは挙動が違うとの話。運転してないからわかりません、はい。
こちらがGT
握り心地と言いシフト動作と言い極上のGT6MT
やっぱりGTの17インチくらいが見た目かっこいいっす
オーディオを含めたインフォテイメントがセンターコンソールのマルチタッチパネルに集合したのも今っぽい。このパネルスクリーンとメーターパネル内のマルチスクリーンの表示精度が超絶美しい。なのでまるでトヨタ車っぽいAピラーなど全く気にならないというのもあながち冗談ではない。とにかく運転に必要な目視部分は実に目に楽しい。一方でエアコン以外の物理的操作子が全部タッチパネル内にまとめられてしまったのは疑問。運転中にパネルを注視するのは危険だからだ。一応ボリュームとメニュー切替えともうひとつは物理スイッチがあるにはあるが…。
※実は純正ナビはまだ用意されておらず、装着されるのは年を越すらしい。それまでは「メーカーも対策を考えてある(by営業さん)」そうだが、ポータブルナビの貸し出しとかか??実車の発売開始にアクセサリーの準備が伴わないというトホホ感、いつかどこかで聞いた事があるなぁと思ったら308発売の時だった(笑)。308はコンソールの傾斜がキツくて、市販ナビのジャイロが誤動作を起こす可能性があって調整中ってことだったような…。
結論的なこと率直にを書くと、このメーター周りとシートの作り込み、それに上等な走行フィールだけでも208は買っても良いクルマだと思う。しかも一番安いプレミアムグレードで216万円である。同じ価格帯のフィアット プントと大いに迷える新車オーナー予備軍のみなさんは幸せだ。208には絢爛豪華な内装もアイドリングストップも自動事故防止装置の類いも一切付いていないが(付いていても地雷になりかねない。それでなくてもAL4のソノレイドとか地雷はけっこうあるし)、走る・曲がる・止まるの3つについては5〜6年は充分楽しめる実力を持っていると思う。燃費のことはハイブリッドだろうがガソリンだろうが、そもそもベストは「乗らないこと」であり、そこを犯しつつ生活するなら「あれに比べれば少しはマシ」なごく小さいレベルであれこれ工夫しているに過ぎないから、筆者は燃費性能のことはもう気にしないことにした。燃費とCO2排出などの環境問題を話題にするならEVまで行きましょう。
今回の試乗でつくづく思ったが、DS3や208のような走る・曲がる・止まるという基礎力が高いクルマは、上等な白米と味噌汁のような存在だと思う。毎日食べているとそのありがたみは薄れて行くが、よそのメシを食べるとがく然と差を実感するという類いのものなのだ。そして日々上等なものを少しずつ食べていると、10年後20年後の生活というものが全く違うものになる。208も毎日乗っていると「な〜んか普通だなぁ」と刺激が欲しくなるかもしれない(それを忘れさせるための美麗なスクリーン表示なのだろう)。だが208に1年乗って○ィッツやフィッ○に乗ると「あれ?」と感じるはず。最初の車検を通過させる頃にはもっとはっきりするだろう。で、実際に208くらいすっきりした乗り味のクルマは高齢者の足としても正しいはずだ。見切りも良いからあまり運転に自信の無い女性ドライバーや運転初心者にも良いだろう。結局走る・曲がる・止まるがきっちりしているクルマは「安全」なのだ。
その辺をうまく営業さんがアピールしてくれればと思う。実際国産の同クラスのコンパクトカーと比べて格段に美しい。この一点だけでも208が日本の路上を走る意味がある。迷っている人はぜひ208を買って日本の路上を美しくしてほしい。
2012.11.27.訂正:
オーディオ関係のコントローラーはステアリングハンドルに埋め込まれる、今風の設置方法に変わっていた。なんでもかんでもタッチパネルでの操作というわけではなかった。試乗中ほとんどそこは気にしなかったので事実誤認があった。お詫びして訂正します。
しかしプジョー伝統のコラムコントローラーの廃止は残念。あれ、超絶便利なのだが。