2012年8月の終わり、家族で旅行に出かけた。行き先は箱根で芦ノ湖近辺に宿を取った。今回の旅行とその行き先決定までには紆余曲折があるのだが割愛する。旅行先でこちらのペースであちこち遊びに行くのはクルマが便利である。もちろんMiToで行きたかったのだが、老母と小学生2名を含めた1行5名となると、4名定員のMiTo 1.4T Sportではそもそも乗車が不可能であるし、シトロエン DS3での移動もやや無理がある。
そこでレンタカーを借りることにした。5名+荷物なのでミニバンクラスである。駅レンタカーを兼ねる日産レンタカー小田原店でキーを受け取ったのは
日産 LAFESTA(平成23年12月登録モデル)であった。乗った第一印象。すごく普通。どこか神経に障るところもない。運転席からの見切りも良いし車内は広々。ドライビングポジションも破綻したところは無い。「なんか、これなら心配することなかったかなぁ〜」などとのんびり小田原市内を走っている間は良かったのだが、箱根の山を登り始めると決してそうとばかり言っていられなくなってきた。
ここからはオーナーさんには面白くないことが書いてある。本ブログはイタリア車乗りのヘンタイの戯れ言ではあるが、一自動車乗りとしての正直な感想でもあるので、そこはそれ「※個人の感想です」程度にお読みいただきたい。
箱根のアップダウンで乗るLAFESTAの印象の大部分を占めるのがCVTである。ぬる〜〜い変速。反応も遅ければドライバーの意図にもあまり追従してくれない。最終的にはもちろん追従するのだけど、「ええ?旦那ぁ、本当にそんなに加速するんですかい??」みたいな長大な間があってようやくぬるぬると下に落ちていく。ちなみにシフトレバーを見るとDポジション以外にはLしかなく、マニュアルシフトの類いは受け入れない。お盆開けの国道1号線は大きな混雑もない常識的ペースではあったが、どうしたって細かい加減速はせねばならない。前のクルマが必要以上にペースダウンしてしまって減速し、サクッともとのペースに戻ろうとするとすでにこれが一大事業になってしまう。
筆者のCVT経験はDS3の前に家人が乗っていたFIAT Punto ELX(いわゆる鉄仮面)だけだが、ここまでひどかった記憶は無い。全然反応しないLAFESTAのアクセルペダルを踏みつつ「なんだ、つまりエンジンがボディに負けてんのね。1.6Lの自然吸気とかかなぁ」と予想した。しかし車検証を見てみたらエンジン排気量は2Lだった!にりっとる??これで??と思わず叫んでしまった。逆に市街地での平和っぷりが疑問に思えてくるが、後述するが、これは日産のチューニングが見事だからだろう。
鉄仮面プント。2000年モデル。
「身の丈を知る」を体現する素晴しいクルマ
もうひとつ気持ち悪かったのがステアリングで、コーナリング中どういうわけか狙ったラインで走れない。カーブの途中でステアリングを戻したり反対に切り増ししたりしてしまう。運転してみた家人も同じことを言っていて、この状態を一言で言うと「思ったとおりに曲がれない」のだ。速度を抑えて相当慎重にコーナーに進入すればそれほどでもないのだが、法定速度範囲ぎりぎりか、やや超過した速度でもRによってはカーブの途中でヨタヨタしてしまい非常に気持ち悪い。
コーナリングの挙動がそういうクルマによくある話だが、当然ブレーキも必要最低限の制動力である。気をつけていないと急ブレーキ然とした挙動になってしまう。踏んでも思ったように停まらないので、最後の最後にブレーキペダルを踏み増すからだ。
トランスミッションがもたらす走りの印象、コーナリングやブレーキの挙動から判断して、LAFESTAは日本国内の交通法規から少しでも逸脱すると、とたんに全方位的に力不足を露呈するクルマだと言えよう。走らないし曲がれないし停まれないのである。こういうクルマしか作れないメーカーならこちらもそういうつもりで接するが、同じバッヂを付けてGT-RやフェアレディZのような世界を相手にするハイパフォーマンスカーを売っているんだから罪は深い。つまり、家族グルマなんざこんな程度でいいでしょ?と言っているのと同じことだ。
現実の交通状況では常に法定速度だけで走ることは不可能である。常に速度超過や無理な割り込みをするということではない。素早い追い越し、正確なコーナリング、余裕のあるブレーキングが可能ならば、法定速度内は言うに及ばず、いざと言う時でも安全なはずなのだ。法律で決まっている範囲でだけしか能力が担保されないクルマではおっかなくてしょうがない。
もうひとつ客を蔑ろにしている点を挙げるとすれば、シートである。サードシートにはヘッドレストが無かった。また運転席助手席供にシート座面長がやや足りなくて、「ケツのおさまりどころ」が悪かった。懸命に美点を探そうと思ったが室内収納が充実していることくらいしか思いつかなかった。この点だけはこの手のミニバンがうらやましい。
最初に「日産のチューニングが見事だから」と書いたが、結局LAFESTAは日本の交通法規を遵守しない人にはドライビングプレジャーが味わえないクルマであり、その領域での挙動のチューニングは筋が通っている。あくまで安全運転をしている分にはラクチンかつ(5人くらいで乗る分には)積載能力も必要十分である。今回は箱根の山を上り下りするという「出会い」があまり良くなかったと言うこともできるだろう。しかしサードシートにヘッドレストが無いことで、LAFESTAは安全なクルマでもなくなっている。このクルマに大人が7人乗るのは危険である。交通事故は移動する距離の長短に関係なく起こる時は起こる。そしてヘッドレストが無かったばかりに負わなくても良い怪我を負うような危険に同乗者を晒すのはやめた方が良い。
それにしても。メディアでしか見聞きしたことのない有名な箱根
ターンパイクや芦ノ湖スカイラインなど、欧州車乗りなら一度は走ってみたいあの道この道への入り口を横目で見ながら、LAFESTAで素通りしなければならない事態というのは悲劇的だった(笑)。シャコタン☆ブギのハジメとコージではないが、「箱根、ですね!(グッと手を握りつつ)」とMiToでの再訪を秘かに誓ったのであった。