灼熱の休日の午後。子どもたちがそれぞれに遊びにでかけてしまったのでMiToの走行距離を無駄に伸ばすためにツーリングに出かけた。
ある「有名な抜け道」を行く。つまり交通量は意外と多い。しかし山奥のダムの手前で何台もクルマが連なって停車するのは異常である。まさかこんな山奥で道路工事かよ!と思って停車している列の後端につこうとしたら、道を塞いでいるのは工事ではなく事故で大破したトラックと軽自動車だった。あるトンネルの入り口、ほんの10mくらいのところである。
とりあえずクルマを降りて近づいてみた。先行車両の数人も心配そうに近づく。筆者が出くわしたのは事故の直後だったらしく、大破した軽自動車にはまだ老夫婦らしい男女が乗っている。さてどうするか。トラックの運転手は無事。軽自動車の男女は、運転者だったらしい男性は自力で動いている。話せてもいるようだ。助手席の女性は苦しそうに顔をしかめているものの意識はあるらしい。救急車は手配したのかその辺の人に聞いてみたところまだだと言う。そこで筆者が通報することにして、その間に他の人は念のため軽自動車から老夫婦らしいふたりを移動させることにした。この判断が正しいのかどうかわからないが、ガソリンに引火して火災など発生したら男性はともかく助手席の女性は助からない。
さてこういう機会なので、緊急通報について書いておきたい。消防、警察双方に効率良く現状を伝えるのが肝要なのだがとっさの事態だと難しいものだ。基本的に消防でも警察でも、向こうが欲しい情報を手短に聞いてくるので、それに答えれば良いだけだなのだが。今回筆者は事故の当事者ではなかったこともあり、落ち着いて通報できたと思う。まず救急車の出動を要請した。消防の場合
・火事ですか?救急ですか? → 交通事故によるけが人がいます
・場所はどこですか? → ○○トンネルの△△側です
・けが人は何人ですか? → ふたりです(他に男女どちらか、年齢はいくつくらいかなど聞かれる)
・けが人に意識はありますか? → あります。男性は自力で動けますが女性は無理そうです
まぁこういうことを聞かれる。年齢を軽自動車の男性に聞いたら60代後半だった。続いて警察にも通報。
・事件ですか?事故ですか? → 交通事故です
・どういう交通事故ですか? → 10tクラスのトラックと軽自動車の右側オフセット衝突事故です
・けが人はいますか? → 60代男女ひとりずつ。救急車はすでに呼んでいます
GPSデータが生かされているらしく、このタイミングで警察の方から「場所は○○の近くのようですね。■■トンネル付近ですか?」と聞いてきた。改めて○○トンネルであることを伝える。今考えてみると「右側オフセット衝突」って言葉として正しいのかどうかわからないが…。ま、でも言葉で聞いただけでもイメージしやすいと思う。
このトンネルはちょうど自治体と自治体の境界線にある。一瞬そのような消防、警察の所轄問題などから救急車の到着が遅れたらかわいそうだなと思ったが、救急車は10分程度で到着した。救急車が到着するまでの間、大破した車両をよく見てみた。軽自動車は右前が完全につぶれており、フロントグラスはヒビが全面に入っているものの、割れてはいない。エアバッグは全開だがコクピットはきちんと乗員保護の役割を果たしている。トラックも右前はダメージを受けているもののやはり頑丈だ。トンネルを出るとすぐに橋があるのだが、その欄干に左前を突き刺さす形で停まっている。両車両ともラジエター液らしい液体が車両の下に溜まっていた。
その他の人は居合わせたクルマから毛布やマットを道路に敷き、その上に寝かせた老夫婦に日傘などで影を作ってやりつつ、話しかけたり様子を聞いたりしていた。動けなさそうだった女性も寝ながら携帯電話でどこかに連絡しているところをみると意識は問題なさそうだが…。
誰へともなく「どんな様子だったんですか?」と聞いてみた。軽自動車の直後を走っていた男性によれば「ずいぶん手前からふらふらと危ない運転だった」という。車間距離を十分とって走っていたところ、トンネルの手前でふらっとセンターラインを越え、トンネルから出てきたトラックとぶつかったという。トラックの運転手さんからも話を聞いてみたが、結論から言うとこの運転手さんのプロフェッショナルな運転で老夫婦は怪我で済んだと言えそうだ。トンネル出口付近で対向車の異常な運転に気付き、減速、左に退避したものの避けきれなかったという。もし減速が遅れたらトラックも橋から落ちていたかもしれない。こちらの運転手さんは身体の防護も完璧でまったく異常は無いという。実際見てみると軽自動車側にはブレーキ痕すら無いのだ。よくこれで済んだものだ、という言い方が正しいのかもしれない。
救急車が2台来てふたりのケアが始まった。通報者なので一応けが人が救急車に収容されるまで見ていたが、特に通報者は誰かなどと聞かれることもなかったので、救急隊員にその旨を告げ立ち去って良いか確認する。また軽自動車直後のクルマの運転手さんが警察にも事情を話してくれるというので、その場を離れることにした。この時間になっても警察はまだ到着せず。山奥の一本道だからトラックはUターンに苦労していた。
以上、だから運転に気をつけようなどと書くつもりは無いが、人に迷惑をかける運転だけはすまい。いくつも偶然が重なり事故が起こり、いくつかの偶然で生死が分かれる。2012年4〜5月に痛ましい交通事故が連続して起こった際に、自動車ジャーナリスト清水和夫さんが「自動車を凶器にしないために」という連続ツイート(
これや
これなど)で具体的な安全運転方法や規制法について書いていたことを思い出した。