とにかく気になっていたのだ。プジョー 508。家人が207兄弟車シトロエン DS3に乗っているし、MiToの前は307SWに乗っていた自分としては508は久々に血がわさわさするクルマである。本日DS3のHIDトラブル解決のためにプジョー仙台を訪れ、暇だったので(笑)試乗してみた。乗ったのはセダン。16インチタイヤだったのでアリュールであろう。タイヤはミシュランのエナジーセイバー。
これはショールームにあったSWの方
まず外観。先日ショールームで見た時はプレステージというか、607を継ぐクルマとして充分に合格点だと思ったが、本日改めて見てみると意外にも508のフロントは凡庸な顔つきに思えた。コンサバティヴと言えば聞こえは良いが、結局中国で売るにはあまりトンガッたデザインでは拒否反応が起こるのだろう。それが事実かどうかはともかく、プジョーはそう考えたのだろう。画像が解禁された頃「トヨタ顔」と揶揄されているのをネットで見た時は「ちょっと言い過ぎでは?」と思ったが、360度見渡してみても確かにフレンチな洒落っ気はほとんど感じられない。
座ってみる。インテリアもVWほど陰気では無いけれど、どうにも敵わない!と思わせるような色使いのセンスなどは無く、ひたすら暗い色使い。308がデビューした時はそれでもまだ少しはそういう色使いセンスがあったのだが、508はややあからさまに「高級車ってこうでしょ?」と言いたそうな造形である。すでに試乗記をアップされている他のブログ主さんなどからは、ドイツ系真性プレミアムメーカーのそれには及ばないと断ぜられているが、しかしこの件については筆者は好意的であり肯定的である。プジョーにしてはがんばっているというトホホな視点もあるにはあるが、正直筆者はこのテイストも好きだ。それに何もプレミアム路線を目指す全メーカーがゲルマンテイストになったら、それはそれでツマラナイと思うのだ。なんだかんだと言われてもプジョーのフラッグシップ車であり、現状の「身の丈」にあっている内装だと筆者は思う。
ドライブポジションを決める。AUTOCAR JAPAN Vol.100に掲載されていた沢村慎太郎氏のレビューにもあるとおり、ペダル配置はまとも。ステアリングはテレスコ、チルト両方装備でそれぞれの方向の調整代も充分あると思う。試乗車にしては珍しくほとんど一発でベストポジションを見つけられた。電子パーキングブレーキってのはいまだに慣れないなぁ(笑)。やっぱりサイドブレーキをガチッと落とさないとシフトレバーをDに入れる動作に結びつかないというか。
さていよいよ走り出す。ここから先はあまり冷静に書けないと思う。すっごく楽しかったからだ。1.6直4+ターボというエンジンは体躯に相応しいトルク感と必要充分な加速が可能。6A/Tも良い仕事をしているはずだ。パドルがあったが一度も使わなかった(試乗コースが直線、左90度カーブしかなかったのだ)。追い越し加速も車線変更時の合流加速も必要にして充分。細かいことを言えば加速の立ち上がりにちょっとだけタイムラグを感じたのも事実だが、普段M/T車に乗っているせいもあるのだろう。そもそもそういう時のためにパドルがあるのだろうし。つまり街乗り場面では余裕綽々である。
室内は必要以上に静かにさせるのではなく、ある程度エンジンの存在を教える風味。実際のところ1.6Lという排気量のエンジンは回さざるを得ないのだろうから、その振動はともかく、音を押さえ込もうとしたら吸音材などで重量がかさむ方向に行ってしまうはず。車重は407よりも軽いとのことで(だからこそ1.6Lが生きるのだろうけど)、ここは動力性能と音振対策の旨いポイントを見つけていると思う。
筆者はエンジン音は不快には思わない性質なので、508の乗り心地は実に快適。見た目が地味目なので乗り心地は多少犠牲になっても(暴言)純正でいいから18インチホイールで少々味を濃いめにしたい。となると足周りの実力が気になるのだが、筆者の乏しい体験上で比較すると16インチホイールとエコ系タイヤを履いた508アリュールは、初代307SWやシトロエンDS3よりも硬い。307SWと比較すると明らかにボディ剛性が高いという印象。そういう硬さ。DS3比感じる硬さは明らかに足のセッティング。つまり味付けの範囲であり、同じグループ会社内でのブランディングというヤツだろう。恐らくこのクルマの性格としてベストマッチなのは16インチではないかと思うが、繰り返すがエクステリアが地味なのだ。少しでもアグレッシブ方面(笑)にするには、手っ取り早くインチアップではないか、と。
試乗を終えてプジョー仙台に戻ってバック駐車もやってみた。リアに向かってやや絞ったデザインなので、どこが後端なのか把握しづらかった。沢村氏によるとブレーキマスターだけは左のままなのでタッチが少しあやふやなところがあるとのことだが、筆者レベルでは気にならない。微速域でコップの水をこぼさないようなブレーキングはそれほど難しくないと思う。
個人的にはSWをいつものワインディングで試してみたいという気はする。万に一つも無いことではあるが、508を購入するとなったらSWしか考えられないからだ(楽器を運ぶので)。峠道を攻めるクルマでは無いのは百も承知だがボディ剛性がセダン比どれくらい落ちるのか端的に知りたいと思う。
実際走っている最中はボディサイズを意識することはほとんど無く、むしろコンパクトに感じられるほどであった。その印象には充分な加速感も貢献していると思う。無国籍的ではあるが充分高品質なインテリア、必要充分な動力性能、生理的に気持ち良い運転感覚。508アリュールを簡単に言うならそういうことになろうか。濃厚な味ではないが、どこにも癇に障るところも無い。注意して飲み干すと、喉ごしできちんと「味わい」を感じられる山奥の湧き水のようなクルマだと思う。
SWの方は本気で欲しいけど、楽器を運ぶ・家族でロングドライヴという2大目的を果たすために買うなら、シトロエンC5ツアラーと1週間飲まず食わずで迷う自信がある(笑)。どちらも「疲れている時でさえ」走りだせばニヤリとしてしまう乗り味だ。もっとも508SWとC5では大筋同じ方向を向いているクルマだと言える。案外これらと天秤にかけるならむしろVWパサートワゴンじゃなかろうか。実直にして豊か。実直という言葉を無視すれば現行ホンダ・アコードワゴンも実はけっこう好きだ。並べて検討対象にできると思う。
土地とお金さえあれば、ねぇ。