家人のCITROEN DS3を運転する機会というのは有りそうで無いのだが、過日近所の買い物に行く際に運転したらやたらと気持ちよかったので、久々の夜活(夜に一人で走りに行くこと)にDS3を借り出した。家人のDS3はデヴュー・セリという限定グレードで、機械的な仕様は通常版で言うところのシックに相当する。1.6L直4自然吸気エンジンに4段A/Tという(スポーツ・シックに比べ)ソフトなもの。
乗って感じる印象のほとんどが足周りに関するものになるのは、自分の愛車アルファロメオMiToと比べてそこに大きな差があるからだろう。DS3の足周りは基本的にはプジョー207と同じものだと認識しているのだが、MiToと比べると「大人な乗り心地」を実感する。コーナリング中の横G、ロールや、路面のアンジュレーション、段差をクルマがうまく丸めてくれる感じが強い。それだって普段MiToに乗っているからこそ「大人」とか「丸めて」などと感じるのであって、数年落ちの国産軽自動車やリッターカー(というカテゴリーは今存在するのか?)から乗り換えたら充分「硬いけどしなやか」だと思う。クルマのメカニズムや成り立ちにはあまり興味が無い、ルックスだけでDS3を選ぶようなユーザーにとっても、DS3の乗り味はわかりやすく嬉しいものだろう。「あぁ、欧州車を買ったんだなぁ」と実感できるはずだ。「時間が経つほど良さを噛み締める」みたいなことになると思うのだ。
その点MiToは良くも悪くも歯に衣着せないというか、あからさまな伝え方である。足周りひとつにしてもスプリングを変えただけでずいぶん改善されたとは言え、ゴツゴツとした乗り心地ではある(もちろんこれはポジティヴに捉えているのだが)。どちらが良いということではなく各メーカーの味付け(チューニング)にはっきり違いがあるというだけの話だ。家人は2000年モデルのフィアットPUNTOから乗り換えたのだが、やはりフィアットとシトロエンでは味付けの根本が違う。例えるなら昆布出汁と煮干出汁の違いみたいなモンか。また品質と言う意味では明らかに一足飛びでグレードアップした感があるので、非常にDS3を気に入っている。筆者としてはスポーツ・シック(6段M/Tでターボ付き、しかも車高も若干下がる)にしてくれれば言うこと無かったのだが。
PSAの製品について語る時、2011年の現在ではどうしてもAL4という4段A/Tに触れなければならない。2010年から徐々に新開発の6段A/Tに切り替わりつつあるが、現状販売されているシトロエンDS3、C3はAL4が搭載されている。これまでDS3の弱点は唯一AL4だと思っていた。要は日本の道路交通事情にフィットしていないのだ。驚く無かれ、60kmを超えてもまだ3速で引っ張る場面があるのである。エンジンノイズも過大だし、踏み込みも戻しもアクセルワークは敏感にならざるを得ない。渋滞の中でしずしずと進むような場面では初期トルクがドドンと出るのでカックンスタートになりやすい。しなやかで丸い乗り心地にマッチせず、コイツだけは我慢ならんと思っていたのだった。何しろ筆者は同じAL4を搭載したプジョー307SWに7年も乗っていた過去があるのだ。これくらい言ってもいいだろう。
しかし過日の夜活で新たな発見をした。このAL4、日常生活で使うものよりも1カテゴリー上の速度域では非常に素直なシフトアップ・ダウンを見せる。とたんに生き生きするのである。「おお、まさに今下げてくれ!って思ったよ」というタイミングでスッと1段落ちたりする。こうなると楽しくてたまんねぇ〜。AL4はお国ごとにセッティングを変えているだろうか。現状を考えるとちょっと疑わしい。そもそもフランスでは皆M/T仕様に乗っているだろうし…。まさかフランスセッティングのままなのか…?でもパリだって交通渋滞はひどそうだ。渋滞のパリでこのセッティングならやっぱりフラストレーションが溜まると思うのだが(行ったことないけど、パリ)。とにかく今言えるのは、DS3(のシック)は飛ばすと楽しいということである。
ただその速度域だとステアリングが過敏すぎて、けっこう真剣に運転しないと危ないということも付け加えておく。漫然と操作するとオーバーステアを感じる場面がある。スポーティーさの演出のために、C3に比べてステアリング径を小さくしたということだが(C3も試乗したことがあるが気が付かなかった)、それもその原因かもしれない。だが現実問題として近所の制限速度30〜40km/hなんて道ではステアリングは快適そのもの。中立付近の情報量がやや希薄な感はあるが、その速度域では気にならない。
本音を言うとデヴュー・セリでM/Tが選べれば極楽だった。それくらいこのエンジンとシャシー(と足周りセッティング)とのマッチングは美しい。5段でもいいからM/Tがあれば低速域でも絶妙の挙動だったろうに…(そして本国では皆そうやって乗っているだろうに…)。
青函フェリー乗り場にて
2010年盛夏