プン太郎の実力を少しずつ理解するにつれ、「オラぁ、相当良い買い物をしたぞ」と口元にんまりな筆者であるが、もちろんまだまだ奥深いところに秘密がありそうで油断はできない。「走る・曲がる・止まる」の三要素ごとにエントリーを上げてきたが、それ以外に気付いたところをランダムに書いてみたい。
■非真円のハンドル
ハンドル形状が真円ではないことに気付いて驚いた。ドライバビリティに優れたクルマこそハンドルの形状は真円だと思い込んできた。増してやアバルトである。レースに勝利するためのクルマである。その部分を蔑ろにしてファッションに走っているのか?と一瞬眉をひそめたのだが、さにあらず。
具体的にではどういう形状なのかと言うと、ざっくり表現すると8時4時の部分に小さな角がある。この角の出っ張りに手首のすぐ上、小指側の少し盛り上がっている部分(小指球と言うらしい)が当たるようにハンドルを握ると、自然と手の位置は9時3時でぴたりと決まる。で、この出っ張りを感じつつ直進するのがエラく気持ち良い。路面情報が濃厚に伝わってくる。もちろん10時2時の位置にもサムレスト(親指あて)があるから、連続するコーナーを処理するような場面ではそっちを握っても良い。
なんだ!この角は!!
ん??握ってみると心地ええやんけ
なるほど〜
実はこのハンドル形状は以前に一度だけ経験したことがある。それはじゃるさん、alfa_manbowさんと筆者の3人で、MiToの乗り比べをした時だ(思えばこの3人で今でもMiToに乗っているのはじゃるさんだけになった…)。manbowさんはハンドルを社外品に交換しており、それはイタリア・トリノのBlackという会社のものなのだが、こいつがまさに9時3時と10時2時の両方に角がある、ある意味で縦にひしゃげた形状だったのだ。あの時も「真円じゃないのに気持ちよい!」と驚いたものだ。
プン太郎に乗る時は自然に8時4時の出っ張り意識するようになる。曲がるよりも直進が気持ち良いとは…。
■気持ちよいシート
プン太郎購入を決めて楽しみにしていたことは多いが、ホールド性の高いシートもそのひとつだ。太もも脇や肩甲骨付近をしっかりホールドしてくれるシートは、その期待を裏切らなかったのだが、どういうわけかドライビングポジションがなかなか決まらず、納車日当日は半日くらいあれこれいじっていた。結論からいうと、MiToとは正反対のドライビングポジションを取らせるクルマだったのだ、プン太郎は。MiToはバックレストを立て気味にして、背筋を伸ばしてハンドルを握るとしっくり来た。プン太郎はその逆である。
MiToの経験に倣って上半身とハンドルの関係からポジションを作っていこうとした。プン太郎のハンドルコラムはチルト/テレスコピック両方の調整機能があるが、テレスコを一番奥に固定してもまだハンドルが身体に近すぎる。※ 視点を変えて足元から決めていくことにした。これはすぐに決められる。だがこうなると、あとはバックレストを徐々に寝かせていきながらハンドルとのリーチを探っていくしかない。結果シートバックレストを寝かせ気味にゆるく座り、足を投げ出すようにしてポジションがぴたりと決まった。
これらの要素は納車日に時間をかけてひとつひとつ解決・咀嚼していったのだが、実に意外な気持ちだった。アバルトと言えばレーシーで、峠の山道をインベタでグイグイ登って行く…というイメージを思い描いていた。そのためには素早い回転でも癇に障ることのない真円ハンドルや、クイックなマニュアルシフトや、バックレストを立てて背中とお尻をぴったりくっつけるドラポジが仕立てられていると思い込んでいたのだ。
しかし各要素についてはこれまで書いてきたとおり。9時3時で握ると気持ちよいハンドル形状、寝かせ気味に調整すると決まるドライビングポジション、タメを作って操作すべき鷹揚なシフト動作。どう考えてもプン太郎は峠マシンではなく、グランドツアラーではないか。同じアバルトでもプントエヴォはツアラーだったのだった。「走る」の回に書いた、シフト動作が敢えて鷹揚にチューニングされた理由とはつまり「ツアラーだから」なのだ。目を三角に釣り上げて電光石火のシフトチェンジを決める…という乗り方が本分ではない(運転のうまい人ならやれるのだろうけど)。
プン太郎について、意外だったがそういう結論を得た。筆者は少し嬉しい。何が嬉しいかと言うと、要素検分を短期間で終えることができたからだ。MiToの仕立てをきちんと理解するまでずいぶん時間がかかったものだ。検分が早くなったのはMiToに鍛えられたおかげだ。そしてシャシーを共有し、全体的なイメージは似通ってはいるが、アルファロメオとアバルトがそれぞれに施した仕立てはずいぶんと違う。検分している個体のリリース時期のずれも大きく影響はしているだろう。2009年と2011年だし、そもそもプントエヴォはグランデプントのマイナーチェンジ版である。発売から2年も市場で揉まれれば、アバルト側にもチューニングノウハウは一層蓄積されるだろうし。
プン太郎の足周りにはMiToに無かった「成熟」を感じる。成熟でなければ「洗練」だ。足はしっかり踏ん張り、路面からの衝撃は素早くいなし、高い直進安定性と絶妙な旋回挙動を味わえる。「それ、ある意味理想のイタリア車じゃないか」って?筆者もそう思う。
※
プン太郎は室内の設えもMiToと比べると実用車よりだ。ダッシュボード全体が低めに作られており、視界が良好なだけでなく、チルト機構でハンドルを最下段に固定すると、日本人にも過不足ない位置まで下げられる。何をどうやってもハンドル位置が高かったMiToに比べると、ドライビングポジションを探しやすい。