2020.03.08 Sunday
クルマとの一体感を考える#5
入院中のヒマに任せてつれづれに綴ってきた本稿も、たくさんコメントをいただいたおかげで、筆者の中で結論めいたものがぼんやりと浮かびつつある。このエントリーをもって結びとしたい。前回までのリンクは以下のとおり。
#1 / #2 / #3 / #4 ジアコーサ式FFダウンサイジングターボは、ひとまずもういい!というところから始まったこの思考の旅だが(おおげさ)、筆者が日々感じていた違和感はメカニズム上の「自動車と運転手の一体感」の正体であり、また同時に魅力的な自動車を作る文化の違いの正体ということだった。きっかけは確かにクルマを構成しているメカニズムの差異を体感したいということではあったが、それは欧州車とは「異なる文化」を体験したいという、渇望のようなものでもあったわけだ。 キーワード1 「大排気量自然吸気+6速マニュアルトランスミッション」 もうひとつ付け加えれば、フロントエンジンリアドライブ=FRである。これらはすべてアルファロメオ MiToやアバルト プントエヴォとは対極にあるもので、筆者のまったく知らない世界である。正直ベースでお話しすれば、FF小排気量ターボ車両の性能を、極限まで引き出してやる技能を、筆者はいまだ持てていない。だからプン太郎を相棒にやることはまだあるのだ。だが、これも有り体に言って、52歳の筆者の身体諸機能は衰えてきた(今回の入院とは別の話だ)。プン太郎とともに峠道やサーキットに行くこと自体が、年寄りの冷や水になりかねない。筆者には「エキサイトしない運転」というものを身に付ける必要が出てきたのだ。 そこで思い浮かんだのがアメリカ車。フォード マスタング。シボレー カマロでもいいしコルベットでもいい。たまたま小学生の頃からなんとなく憧れていたマスタングが、思考の俎上に載ったにすぎない。北米大陸、ひたすら伸びるハイウェイをただまっすぐドロドロ進む…という図に、今さらながらシビレる。少しして同じパッケージでアストンマーティンの諸車があることを思い出した。レースを起点にしているからこちらは基本的にカリカリしているが、足周りなどの細かいことを忘れれば、メカニズムの面ではマスタングもヴァンテージも同じような構成だ。だが、前述の「エキサイトしない運転」の面から考えると、両者は激しく違う。それはなぜか。 キーワード2 「気候・風土・社会」 もやもやとその違いを考えているうちに、この連載#3へナカジョー・フリムさんが的確なコメントをつけてくださった。 なぜ欧州車が日本に馴染むのかという考察はともかく、筆者が漠然と憧れていたアメ車の要素を、ここまで言語化されると恐れ入るしかない。そうなのだ。結局アメリカという風土や社会構造が育むアメリカ人気質こそが、アメ車を作り上げているのだ。自動車の世界におけるそのエリアを、筆者はまったく未体験と言っていい。あの必要以上にマッチョな車体デザイン(のわりに内装は貧弱)の理由などを、プロダクトを体験することによって理解してみたいのだ。そう考えるとアストンマーティンが「なんか違うな」という違和感とともに選択肢から外れるのも納得だ。基本的に「エキサイトするためのクルマ」だし、出自となる気候風土はどちらかというと東北地方に近いんじゃないか。 キーワード3 「自動車の未来に対する漠然とした嫌悪感と妥協」 というわけで、筆者が自動車に求めるものはシンプルな機構でシンプルな味わいという方向なのだが、そういうクルマはどこにあるのか?と、あらゆる自動車のジャンルを眺めてみると、実は少ない。というか、ほとんどない。そのことに改めてがく然としてしまう。加速・旋回・制動の最重要3要素が、重畳する電子制御で高度かつウェルバランスでできるようになったが、自動車と運転手の一体感は置いてけぼりにされている。現代のFF小排気量ターボはこういう制御なしにはもはや成り立たない。非常に腹立たしい、と思っていたら、この思考の先にも論客が来てくれた。A.Sudさんである。#4へのコメントで曰く。 このコメントのおかげで、筆者の自動車体験を支配するFF小排気量ターボというパッケージに対する不満点も、すっきり見渡せるようになった。結局は「演出」なのだ。自動車メーカーによる「ほら、こういうの、好きでしょ?」という忖度とも言えるし、上級テクニックを持ったドライバーだけが体験できていた世界のほんの一端を、筆者のようなボンクラドライバーにも垣間見せてくれる優しさとも言える(笑)。そこには「車両と運転手の一体感」は無いけれど、キャブレターと完全パッシブ機構という、操作にコツもいれば頻繁なメインテナンスが必要だった頃の煩わしさと無縁の日常がある。確かに2020年の今、チョークレバーを引いて、イグニションの瞬間に少しだけAペダルを煽って…なんてことをオーナーに強制していたら自動車は売れない。自動車メーカーは商品性を高めたに過ぎない。運動性能の演出はそのお釣りみたいなものだろう。その演出が過剰に進み、運転手が必要とされない未来が描かれつつあることには素直に嫌悪感を表明しておくが、「今日はエンジンかかるかな?」という生活が不便であることも認めなければならない。 幸い2020年の今なら、ケイターハム スーパー7も、ポルシェ タイカンも選ぶことができる。お金さえあれば(笑)。メカニズム上の一体感の正体がわかった今なら、電子制御でラクチンに走るマスタングを選ぶことは決して間違いじゃないな、と腹落ちしたのである。拙い筆者の思考にお付き合いいただいた読者諸姉諸兄と、コメントくださったみなさんに感謝いたします。 さて、マスタングのV8+6MTモデルの中古市場価格はいくらかな? |