クルマで行きます

クルマが好きなことにかけては人後に落ちない。
東北のABARTH PUNTO EVO乗りが綴る、クルマについてのあれこれ。
500を3台乗り比べ!「500 TwinAir そんだけ弄ったらどうなるの?」OFF会
| 試乗レポート | 00:22 | comments(29) |


本ブログではこれまでに何度もフィアット 500の試乗記を上梓してきた。2007年の発売当初からごく最近のものまで、それなりの数になっているはずだが、筆者が本当の意味でこの"ヌオーバヌオーバ"500の真価を理解したのは、とどのつまりデュアロジック(セミオートマティックトランスミッション。アルファロメオで言うところのセレスピード)を理解できた時からと言える。理屈を踏まえて自分の運転をアジャストすれば、デュアロジックは運転好きのイタリア人が作ったなかなかの機構であることがよく理解できる。そこを理解できない頃の筆者の試乗記には歯に物が挟まったような記述が散見される。申し訳ないがそれはもう忘れてほしい。今や筆者は500+デュアロジックを所有してもいいと思うほど宗旨替えをしてしまった。ということで、改めて読者諸兄に本ブログから500に関する試乗記をご紹介するとしたら、それは以下のエントリーであろう。

【試乗記その1】FIAT 500こそファミリーカーの決定版である。以上!!
【試乗記その2】FIAT 500 1.2POP 足るを知る
【試乗記】フィアット 500 TwinAir・「必要充分」の一割増し

500のチューンナップ版たるアバルトブランドのモデルも大絶賛である。まぁこれらはMTモデルなのだが。
試乗記・ABARTH 500、ぷりっぷりのもぎたてフルーツ
試乗記・ABARTH 595Competizione。「過剰」ではなく高次元で高バランス

これら試乗記を丹念に読み返していただく必要は今はないが、要約すると「フィアット 500は良いクルマである」というシンプルな一言となる。下駄グルマとして実際に自分が所有できるとしたら、笑顔笑顔で運転すると確信している。

しかし、だ。500と言ってもずいぶんとバリエーションがある。特に筆者が激賞するTwinAirエンジン搭載のモデルやアバルトの諸モデルまで考慮に入れると、同じものをベースにしているが別物と言っていい。実際乗り比べたらどのように印象が違うのか、ヘンタイ諸氏ならかなり興味を惹かれるのではないだろうか。

ひょんなことからその乗り比べが実現した。山形在住のエンスージアストしげさんはマツダ アテンザに惚れ抜いて購入し、奥様のためのもう1台としてフィアット 500TwinAirを増車。もうこの状態でかなり羨ましい状態であるが、手を入れずにいられなかったらしい(笑)。順当にあれこれ手を加え始めてしまった。冒頭に紹介した「【試乗記】フィアット 500 TwinAir・「必要充分」の一割増し」は、エアクリーナーを導入した直後の試乗記で、日本導入直後に筆者がディーラーで試乗した時よりも好印象は3割増だった。しかししげさんの改造欲はエアクリーナーに留まらず、マフラーレースチップインチアップしたホイールとタイヤダウンサス…。
 






箍(たが)が外れたようなしげさんの改造日記は、SNSでイヤでも目に付く。それらの改造を「ふーん、そうですか、ま、ほどほどに」などとやり過ごせるほど筆者は枯れていない。折々に「今度運転させてくださいよ」としげさんにお願いしていたところ、とうとう叶うことになり、ちょっとした思いつきから500に縁のある方々もお誘いしてみた。
 


ユキノッティも参加


alfa_manbowさん。弟さん所有の「素の」TwinAirでご参加。Tazzaさん。MiToから乗り換えたアバルト 500でご参加。あおさん。500とは縁は薄いが(笑)、本ブログのOFF会発起人として強制参加。つまり

素の500TwinAir
あれこれ手を入れた500TwinAir
メーカーコンプリートカー的なアバルト 500

を一気に乗り比べである。これは地味ながらすごい企画ではないか。自動車メディアでもせいぜいTipoがやるかやらないかの企画(笑)と言える。500は中古の弾数も多いため、今まさに500を購入しようと貯金通帳や財布と相談している方も多かろう。ヘンタイ知識欲を満足させるとともに、真剣に購入を検討している方々への貴重な情報となるよう書いてみたい。試乗会場は当ブログ5月のオフ会の定番となりつつある山形県山形市、西蔵王公園。アップダウンを含めたワインディングロードを擁する絶好のロケーションで、同車種のレンジテストである。今回は通常のOFF会ではなく勉強会、すなわち「クルマで行きますワークショップ」とでも言おうか。題して「500 TwinAir そんだけ弄ったらどうなるの?」(原案しげさん)。はじまりはじまり〜。←イントロが長い



さて各車の違いをあれこれ書き連ねる前に、今回の乗り比べで筆者が重視したポイントを書いておく。

1.主に加速域での動力性能
2.コーナリングの限界値
3.「走る・曲がる・止まる」の要素バランス


どれも「走って楽しいかどうか」に大いに関わる部分である。エクステリア・インテリアの差異やそもそもの出来については今回は考えない。そこはもういいでしょう(笑)。そもそも見た目だけで買っても損しないクルマなのだから。ともあれ早速乗り比べの印象を書いていこう。

素の500TwinAir POP
まずは原点をきちんと確認。alfa-manbowさん弟君の個体をご提供いただいた。冒頭にこんなことを書いて恐縮だが、乗り終えた後は「これで全然いいじゃないか」と思う。踏めば応えてくれるエンジンではあるが、西蔵王公園の上り坂では確かに全開にせざるを得ない。だがトップエンドに至るまでの加速やトルクの出方は決して頼りないものではなく、むしろ「1リットル無いのにこんなに力強いの??」と毎回ニンマリしてしまう。当日は「使い切ってる感」という造語が生まれ、これは500TwinAirに対するかなり的を射ている賛辞だと思う。余談だが素の1.2POPもこの「使い切ってる感」は強い。が、TwinAirに比べると特に加速域のトルクの盛り上がりにやや線が細い印象があり、運転の楽しさにおいてはTwinAirの方が上と断じてかまわないだろう。

alfa_manbowさんは、コーナリング時の挙動について「けっこうロールする。そこにビビって踏みきれない。しかし今日のテストで、ロールした先できちっと踏ん張ってくれることが納得できたら踏めるようになった。リミッターは自分の心にかかっていた」という意味のことをおっしゃっていた。特に下りのコーナリングで実感できるそのロール具合を、筆者はアトラクションのように楽しめた。でも「この辺でやめておこう」というリミッターにはなりますね、確かに(笑)。

結局「平地をひらひら走ってる分にはTwinAir素モデルで充分」というのが現場の一致した感想であった。

メーカーコンプリートカー的なアバルト 500
改造したしげさんのTwinAirに直接乗り換えることも考えたのだが、ちょっと待てよと。各要素を後から追加していった改造後のTwinAirの前に、メーカーコンプリートモデルとも言えるアバルト 500の実力を先に体感しておく方が、しげさんの改造結果をより中立的な視点で感じられるのではないか?と考えた。そこでTazzaさんのアバルト 500のキーを借り受ける。現行アバルトのラインナップに500の名前ではもはや存在しない。だが今回のこのTazzaさんの個体は「アバルト 500」の素の状態。エッセエッセキットを搭載しているので「素」は大げさかもしれないが、いずれにしてもアバルトの名の下に施されたフィアット純正チューニングが、ピュアな状態で維持されているわけだ。その意味でも大変貴重な個体であり、今回唯一のMTモデルでもある。

実際に走り出してみると、素のTwinAirに対してふたつの余裕を感じることができる。ひとつはエンジン。ま、そりゃそうだ。てか比較すんなよ、という感じだ。だって1.4リッター直4DOHC16バルブターボにエッセエッセキットで160psに対してTwinAirはインタークーラーターボで85ps。比べてすみません。比べちゃいけない理由は後述する。とにかくアバルト 500、滑らかであり凶暴でもあり。あれよあれよと回転数が上がる。もうひとつは足。サスのストロークの余裕綽々っぷりはどうだ。単純な印象としてはバネレートが高い感じで、ストロークは(通常の500比)もちろん短いのだろうが、滅多なことでは底付きなんかしませんよ、という声が聞こえてきそうだ。これらが合算されることで、アバルト 500(エッセエッセキット付き)は速いべらぼうに速い。500ベースの着座位置はスポーツカーと言うには高目であり、その結果「バカッ速感」は緩和されているはずだが、これで目線があと50mm低かったら、感じる「速さ」はもっと増すだろう。でも恐怖は感じない。ひたすらシェアなハンドリングとペダルレスポンスがどの領域でも感じられ、「うーむ」と感心しつつもニヤケてしまう。MTのシフトゲートがやや曖昧なのが玉に瑕だが、ま、そんなことは些細なことですよ。

あれこれ手を入れた500TwinAir
さてこの日の本命である。素のTwinAirを「平地をひらひら走ってる分には充分」とまとめてはみたが、それは裏返せば、平地以外をひらひらじゃなく走るにはやや力不足な部分があるということでもある。しげさん改造のこの個体の魅力は「加速」と「足の踏ん張り」である。吸排気経路を整え、レースチップを組み込むことで低回転域のトルクが増したのだろう。明らかにAペダルのレスポンスが向上している。それも「うわ!下品!」と思う手前で踏みとどまる絶妙さ(レースチップのチューニングはこの試乗直前に"最強モード"に変更されたが、下品ではない)。またダウンサスと17インチにアップされた幅広タイヤ(ATR Sportだぜ!)のおかげで、ロール量は減少し、足が横に逃げる感覚がずいぶん緩和された。だ・か・ら!西蔵王公園のワインディングのコーナーで「おっと」とAペダルを戻すこともない。改造後のしげさんは「コーナーへの進入速度が20km/hくらい上がった」とおっしゃるが、これは筆者も体感した。そしてコーナー脱出のための再加速を加えるポイントも、より手前から踏んでいけるようになる。アバルト 500とはまた違う意味で、これも「速い」。あっちが「余裕」ならこっちは「発奮」である。どっちを好ましく思うかはドライバーの人生観による。

しげさんの個体、重箱の隅をつつけば、あとホンの少しステアリングをクイックにしてもらえると、より「速く」感じられると思う。また「こうなるとシートが物足りなくて…」ともおっしゃっていた。ステアリングもシートのホールド性も、加速とコーナリング性能の体感に密接に関わるチューニング領域なのだろう。そして残念ながら、5月に筆者が指摘した吸気の瑕疵はまだ解決されなかった。エアクリーナーの交換取り付け精度が高くなかったのか、「過呼吸」的症状が見られるのだ。それもちょうど3,000〜4,000rpm付近の「もっともおいしい」回転域の話。過吸気による不完全燃焼らしいが、こいつが本当に惜しい。これにはしげさんも手を焼いているようで、どうしたもんか的な会話が繰り広げられた。



ここですかねぇ


そういう小さな不完全さはあるものの、低回転域のトルクアップもコーナリングでの足の踏ん張りも、どちらも素のTwinAirに長く乗っていると「あとちょっと、こうだったらいいのにな」と感じずにはいられない部分であることは、オーナーではない自分にも容易に想像できる。そこをクリアしたのがしげさんの改造TwinAirと言える。しかもしげさんはちょくちょくこの試乗コースを走っている。このコースで感じる不満をクリアしたのだから、もはやこの個体は「西蔵王公園スペシャル」と言ってもいいのではないか(笑)。



喧々諤々ですよ


まとめ
貴重な体験だった。こうやって3台を乗り比べた後に500というクルマの楽しさの根源を考えていくと、TwinAirというエンジンの偉大さに突き当たる。TwinAirには「最小のものが最大の効果を上げる」瞬間を実体験できる快感がある。その快感が、素のままでも改造しても大きく変わることが無いのは正直驚いた。今だから書くが、この実験の結果は「素」<「改造」<「アバルト」だと想像していた。だが前述の通りアバルト改の直4ユニットマルチエア(※追記あり)とTwinAirはそもそも立脚点が違う。だから直接の比較にはならなかった。そして同じTwinAirでも「素」には「素」の、「改造」には「改造」の楽しみが確かにあった。しげさんの個体は「最小のものが最大の効果を…」の「最大値」を引き上げたもの。しかし要素改造なのでややアンバランスな部分もある。もっともこの個体はしげさんの、言わば「セミオーダースーツ」のようなものだから、そのアンバランスなところも含めて愛着を生む要素になるだろう。

500というクルマは、一見ファンションアイテムっぽいナリをしているが、「楽しく走る」ことにかけてはずば抜けて素晴らしい。その素晴らしさは全方位的な性能の良さではない。一部の人にデュアロジックは今でも鬼門だろうし、TwinAirのエンジン音と振動は「トラックみたい」と言われても仕方ない。しかしクルマへの愛着、性能の物差しは決して全方位的なものでも平均値的なものでもない。何を得て何を捨てるのか。作り手のその判断とオーナーの人生観が共鳴することがもっとも重要だと思う。500は得るものと失うものの区別がはっきりしているが故に、共鳴の幅は狭いかもしれない(そもそも日本に於けるイタリア車という段階で、すでに幅が狭められている)。しかしオーナーと共鳴すればその福音はとても大きなものになる。それを「アバタもエクボ」と言うことは簡単だが、どこにも引っ掛かりの無い車に無表情で乗るよりも、「あれもこれもしょぼいけど、とにかく乗ると楽しい!」と日々笑顔で乗るクルマの方が100万倍良いではないか。そんな500TwinAirの新車が車両本体230万円で買えることがそもそも素晴らしい(4気筒のPOPなら200万円を切っている)。普通の人が普通に買える価格帯にこんな楽しいクルマがあることを、多くの人に知って欲しい。

改めて今回お集まりいただき、愛車をご提供いただいたみなさまに感謝いたします。本文内、間違っている情報や筆者が突っ込めてないポイントなどあれば、ぜひご指摘いただきたい。めっちゃ楽しかった!



しげさんの奥さんと下の娘さんも合流して
恒例の竜山でそば



6〜9月の期間限定商品
「だしそば」!!
うめえ

 
※余談ですが、このワークショップの帰り道にMiToのシフトワイヤーが切れました。ちゃんちゃん。
※追記
アバルト 500のエンジンはマルチエアじゃありません。すみません。
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■プン太郎■
筆者の愛車ABARTH PUNTO EVOのこと。
ブログ本文に「プントエヴォ」と
フルネームで書くと煩わしいので命名。

■R、K■
R=国道(Route **)
K=県道(Kendo **)
のこと

■S店長■
筆者のMiTo購入時の担当営業さん。
現在VOLVO仙台泉店の店長。
筆者のクルマ人生を変えた人。
一言で言えばカーガイ。

■K店長■
クライスラー・ジープ・ダッジ仙台の店長。
TCT版リリースを機に滑り込みで
MiTo1.4TSportを購入したカーガイ。
カーオーディオ地獄サバイバー。

■顧問■
筆者の友人太郎君のこと。
エンスージアストにしてドラマー。
いろんな意味で筆者の指南役にして
このブログの技術顧問(と勝手に思っている)

■朝練&夜活■
早朝に走りに行くのが朝練。
夜に走りに行くのが夜活(やかつ)。
夜の走行活動の略。
どちらもひとりであてもなく走る。
つまりひたすらクルマとの対話を楽しむ。

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親友2名と行うツーリング企画の名。
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