クルマで行きます

クルマが好きなことにかけては人後に落ちない。
東北のABARTH PUNTO EVO乗りが綴る、クルマについてのあれこれ。
試乗記・マツダ デミオの研究
| 試乗レポート | 12:29 | comments(14) |

先に報告したとおり、プン太郎の左前輪ハブを傷めてしまい、しばし入院期間があった。その際の代わりの足として、今回は任意保険特約のレンタカーサービスを利用した。コンパクトカー数種の中から選べるとのことだったので、マツダ デミオを指名。マツダの実直な自動車作りに感銘を受けた。しかし「デミオ、いいわー」では芸がないので、じゃあ売れ筋ヴィッツと比べてどうなのか?という視点の2層構造でお送りしてみる。

マツダ デミオ(車検証による)
総走行距離約70,000km
初年度登録 平成29年(2017年)
形式 DBA-DJ3AS
原動機の形式 P3 
排気量 1.29L(ガソリン)
車両総重量1,405kg(前軸重690kg 後軸重440kg 車両重量1,130kg)
全長 406cm
全幅 169cm
全高 155cm

実際に乗ってみたデミオは良いクルマだった。乗って動かした瞬間に「なんじゃこりゃ!すげえ良い!」となるのではなく、じわじわとその良さが身体に染み渡るような、そういう「長いお付き合い」ができる系の良さだった。
 

保険特約のレンタカーゆえ、動力性能は当時の最下層グレードのガソリン1.3lモデル(現行ではもうない)。従って飛び道具的な良さは皆無である。しかしマツダが喧伝する運転環境は乗った瞬間に「ほほぅ」と唸ることになる。デミオの運転席に座ってみると文句の付けようがない。シートとハンドルのセンターは中央に正対しており、両足を自然に投げ出した先にAペダルとフットレストがある。ハンドルのチルト・テレスコ、シートの前後・上下の調整代も充分ある。正直に言ってLHDのプントエヴォよりも余裕があるほどで(プントエヴォはセンターコンソールが無用にはみ出していて右足を阻害しがち)、プントエヴォ乗りとしては「これは一体どういうことか」と複雑な思いである。
 

ちなみにプントエヴォの全長はデミオよりも2cm、全幅は3cmも大きい。しかしデミオの運転環境の方が体感的に余裕があるのだ。鋭い読者なら、「ははーん、後部座席は我慢大会なんじゃないの?」と思われるかもしれないが、筆者の運転姿勢にシートポジションを決めて後部座席に座っても、シートバックと膝の間には小さなこぶしひとつ分の余裕があるのだ。
 

これはおそらくトランクの収容容積を削った上で、エンジンルームのコンパクト化にも成功しているからではないか。スカイアクティブとは革新的な新技術というよりも、既存の技術を要素レベルで見直して、高効率化を達成する「開発態度/指標」だと筆者は理解しているが、そういうものの積み重ねで4メートル強の全長の中で、健全な空間を作り出すことに成功しているのだと思う。

例によって運転環境のことから書き始めたことで、うんざりする読者もいるかもしれないが、ことデミオに関しては、この健全・まっとうな運転環境がその他の七難を隠しているからまずは書かざるを得ない。意地悪く言って「コンパクトカーとしては…」という接頭句が付くとしても、5ナンバーサイズでこの運転環境を構築したマツダは偉いし、実はデミオの美点はこの健やかな運転環境に集約されると言っても過言ではない。筆者など、この運転環境のせいで他のあれこれは忘れてもよいと思ったほどだ。「それ、褒めすぎ」と思われるだろうか。だがマツダはこの運転環境を構築したことで、例え最下層グレードでも運転ストレスを減らせると、ある意味確信犯的にチューニングを施した気配がある。

最初にそのことに気づいたのはハンドルである。車格に不似合いに径が大きめで握りも太い。実寸を採寸し損ねたが、同社のアクセラ(現3)やアテンザと同等サイズではないかと想像する。さすがに表面そのものは樹脂感著しいものだが。この太くて径の大きなハンドルに初めは違和感を覚えたのだが、いざ運転してみると、非力ゆえに俊敏さを演出しようがない1.3モデルとは辻褄が合っている。普通コンパクトカーなら、ハンドル径小さめ、ロックトゥロックも早めにして、クルマの挙動をクイックに感じやすくするだろう。だがマツダは反対に仕上げてきた。つまりデミオを鷹揚に、ゆったり運転させようと運転姿勢から自然に気取れるようにした。無過給の加速はひたすら遅い。旋回も実直であることだけが美点。減速もそれら挙動に見合ったものでしかない。だがそのことにイライラしないように運転環境が作られている。生理的に全部がちょうどよく設えられている。

これはちょっとすごいな、と感心してさらに距離を重ねていくと、運転姿勢だけでそれらが演出できているわけではないこともわかってくる。「走る・曲がる・止まる」の三要素が、実は丁寧に仕上げられている。加速は確かに遅いが、国産同カテゴリー製品のように40km/h(あるいは60km/h)まで限定の加速感=それ以上の速度になるととたんにふん詰まり感+けたたましいエンジン音のような二面性は皆無。例え80km/hまで速度を上げてもごく自然にノイズが高まり力感のタレを感じるだけだ。旋回はどこにもピークもなければ過剰な演出もなく、旋回途中で切り増したところで動作が不安定になるようなこともない。特筆すべきは制動性能で、いったん十分に減速した実感を得たあと、Bペダルの踏力を徐々に弱めていく時、ごく自然に一定の抜き具合を達成できる。

これら加速・旋回・減速の三要素に共通なのは、「徹底してリニア」ということだ。加えた運転操作に対してリニアな反応が返ってくるから、運転手は始終リラックスして運転できる。同時にクルマの反応以上のものを無理やり求めるようなこともしなくなる(交差点右折や追い抜きなど皆無ではないけど)。無理を強いられないデミオは(絶対性能は低いけれど)その持てる能力のおいしいところだけを使って動く。気が付くと「運転してて姿勢も楽だなぁ」となる。

これの真逆と思われる直近の体験が、老母の車検代車で1日だけ我が家にいたトヨタ ヴィッツである。

2019年6月のヴィッツの試乗記
試乗記・トヨタ ヴィッツ・クルマの趣味性とはなにか

今回はヴィッツを挙げているが、これまで筆者が体験してきた国産実用車は概ねこういう感じ。つまり法定速度内の挙動にだけフォーカスがあっていて、それを逸脱した範囲では加速が鈍ったり、旋回が覚束なくなったり(タイヤのチョイスもあるだろう)、制動力に不安を覚える。それらとデミオを比較して考えると、国産実用車は全体的に「加速」「旋回」「制動」を各要素ごとに構築しているのではないか。逆にデミオは各要素は特段どこにもピークを作らず、悪く言えば無表情に構築し、最後の最後に「乗り味」という数値化が難しい領域で辻褄を合わせている。多分乗り味としてまとめる時には、各要素は主張しすぎない方が良いのだろう。

デミオのような、水に例えれば蒸留水のような、余計な濁りのないクルマが日本で売られていることは、大変めでたいことだと思う。だが一転してデミオが売れるクルマかどうかという、「商品性」という意味では残念ながら違ってくる。比較引用したトヨタ ヴィッツというクルマは、「リニアリティ」という意味ではデミオとは正反対のクルマだ。CVTによる鈍感な変速動作によっていっそう明らかになってしまう低馬力然り、法定速度を超える範囲に突入すると一変する音振環境然り、初期だけ効くサーボとパニックブレーキには頼りない制動然り。だがマンマシンインターフェイスには遺漏がない。望外に作りの良いハンドル、組付け精度と強度感たっぷりのペダル類、豊富な物入と複雑なカーブを持つ見た目に楽しい内装と組み立て精度などなど。一方デミオの内装はストイックで男性的。それはある意味で本当の機能美なのだが、クルマ造りにおいて、これだけ勘違いしたフェミニズムに支配されたカワイイ内装が跋扈する日本国内で、デミオの持つソリッドなムードは素っ気ないと受け取られても仕方ない面がある。
 



これは想像でしかないが、どんなクルマに乗っても「オレ様の運転にクルマが合わせろ」と考える運転免許取得者も多いのではないか。そういう極端な人種はともかく、1台の自動車に真摯に相対しようという運転手は少ないと思うのだ。そういう運転手にデミオが語りかける声は、残念ながら小さいと思う。いや、いつの間にか声だけが大きいクルマが増えてしまったというべきなのか。

マツダ デミオはまっとうなクルマだった。乗って正しく運転すれば大方の人はハッピーになれる。だがこのハッピーさに気付く人がまだまだ少ないのではないか…と考えずにいられない体験だった。
試乗記・病人として救急車に乗ってみた
| 試乗レポート | 09:39 | comments(19) |
既述のとおり筆者は現在入院中で、病院には救急車で運ばれた。運悪くそれは週末で、夜が明けたらかかり付けの医者のところに行こうと思って、辛い症状にいらぬ我慢をしていたのだが、家人が見兼ねて電話した。この判断はめちゃくちゃ正しかったので、家人には感謝している。本稿では病人が救急車で搬送されるとどういう具合なのか、を書いてみたい。

仙台市消防局が導入しているのはトヨタ ハイエースをベースとした高規格救急車で、車名はHIMEDIC(ハイメディック)。高度医療ではなくて、「ハイ」エースとパラ「メディック」との造語とWikipediaには掲載されている。ハイエースのメジャー/マイナーチェンジによって、世代がいくつかあるようだが、さすがに緊急時にそれを見分けることはできなかった。こんな記事がネットに落ちている。本エントリーには画像がないので、以下の記事中の画像でイメージしていただければ幸いである。

クリッカー2017/11/22
【新車】新型ハイエースの救急車「HIMEDIC」は普通のハイエースと意外なところが違った!!

今回重要なのは、このハイメディックがハイエースという商用車を基礎にしていることと、国内占有率最大という情報である。

<ストレッチャー>
いきなり車両本体ではない視点から書き始めてしまうが、なにしろ救急車と言えばストレッチャーではないか。筆者の救急車初体験は、このストレッチャーから始まる。仰向けに寝てまず驚いた。すごく快適なのだ。ストレッチャーの寝台は上体だけ起こせるように2分割されているから、クッションの真ん中に谷がある。これがちょうど背骨の湾曲に沿う形になっていて、実に快適にフィットする。後日のCTスキャン画像解析でわかったのだが、筆者はこの時膵炎も併発していたようで、その症状のひとつが腰の痛み。これは助かった。高度な専用機械というのは、ジャンルを問わず身体に優しい。

<酷い足周り>
走り出すと一転してこのストレッチャーのフィット感が仇に。ハイエースベースの足周り+特殊装備対応のチューニングの合わせ技か、とにかく突き上げが酷い。それはスプリングにもダンパーにも余裕がなくて時々底付き…のような不始末ではない。縦揺れが一発で治まらないのだ。極端な比較だが、筆者の愛車プン太郎の足は硬い。しかし動かないのではなく、道路からの不正入力を最低限の縦揺れだけで吸収してしまう。結果的に情報は多いが揺れなくて快適ということになる。だがハイメディックはそれができていない。車重前後バランスの不均衡もあるのだろう、その縦揺れはピッチングである。つまり前後で揺さぶられるのだ。これが前後同時に同じ量だけ上下するバウンシングならまだしも。想像してみてもほしい。具合が悪くて仰向けに寝ているベッドを枕元と足元双方違うタイミングで揺らされたらどうなるか。しかも前述のとおり背骨の湾曲と絶妙のフィット感を醸すストレッチャーに寝ているのである。冒頭に張ったリンク記事には「左右重量バランスが異なるので、サスペンション左右のバネレートを変えている」という意味の既述があるが、それは十全に機能していないと思う。下り坂など、身体が前にずり落ちそうになって特に怖かった。

<防音も不足>
加えて防音も無きが如しである。仰向けに寝ながら周囲をぐるり見てみると、内パネルは架装されてはいるものの、極端に言えば、ハイエースの荷室に寝ているのと同じである。病院との収容交渉は専用の電話回線で行うようなのだが、隊員のひとりがかなり大きな声で病院の窓口と交渉していた。そこそこの速度で走る商用車の車内から電話すると、病院側だってよく聴こえないんじゃないか。実際119へ電話して救急車を待つ間にも、到着前に溶体をヒアリングするため救急車から電話が折り返されてくるのだが、家人がずいぶん大きな声で返事をしていた。この防音処置ではさもありなん。筆者を引き受けてくれたのは3院目で、筆者の病状の大声での説明を3回も聞く羽目になった。

<今回の結論>
そんなわけで、病人として乗車する救急車はあまり快適ではなかった。医療用器具搭載などの事情はあるにしても、やはり過積載上等!で荷物を積むクルマ由来の足周りに難がある。車体の姿形としては理想的なのだが…。この乗り心地が日本の救急車のデフォルトだとすると、あまり関心できない。

<その他気が付いたこと・鳴らさないサイレン>
ご存知の方も多いと思うが、救急車はけが人病人を乗せてすぐに走り出すわけではない。患者の容態をヒアリングして、できるだけ正しく把握した上でいくつもの病院と収容交渉し、搬送する。筆者自宅は仙台市の北の外れで、日曜深夜に救急患者を受け付けるような病院からは遠い。そこで搬送先を探しつつ見切り発車してくれた。意外だったのは、こういう急ぐに急げない状況ではサイレンは鳴らさないのだ。確かに「どこに急げばいいんだ」という状態ではあるものな。

<その他気が付いたこと・精密機械満載で気分はアガる>
前述のとおり特殊医療機器がごちゃっと積まれている。主に寝ている患者の左側(車体右側)に所狭しと装備されており、バイタルモニターは患者も見ることができる位置にある。これらは如何にも精密機械という態で、身体はつらいのに気持ちは盛り上がる(笑)。手元明かりが天井に2灯内蔵されていて、けが人の患部を診るのに使うのだろうなぁと想像。

<その他気が付いたこと・素晴らしい救急隊の働き>
救急隊員のみなさんの動きは素晴らしかった。仙台市消防局青葉消防署荒巻出張所救急隊のみなさん。きびきびとした動きと丁寧な説明。搬送先が決まらないと「すみません、なかなか決まらなくて。我々もすぐお連れしたいんですけど…。すぐに次を探しますからね、がんばってください」と何度も励ましてくれた。ありがとうございます。

ということで、筆者初の救急車体験のレポートは以上。みなさんはぜひ、救急車に乗らないような生活を心がけていただきたい。
試乗記・ホンダ ヴェゼル 少なくともまっすぐ走ります
| 試乗レポート | 21:28 | comments(8) |


社用車ホンダ ステップワゴン(初代)が車検を受け、その期間ホンダディーラーから代車が寄越された。それがなんとヴェゼルである。当社のステップワゴンはもはや20年選手であり、ホンダディーラーはきっとセールスの機会と捉えて、ちょっとイイヤツを送り込んでくるだろうという筆者の予想はまんまと大当たりであった(笑)。

ホンダ ヴェゼル(車検証による)
総走行距離約2,300km
初年度登録 令和元年(2019年)
形式 DBA-RU1
原動機の形式 L15B 
排気量 1.49L(ガソリン)
車両総重量1,465kg(前軸重750kg 後軸重440kg 車両重量1,190kg)
全長 433cm
全幅 177cm
全高 160cm

社用で、しかも同僚を載せて市街地を20km弱走っただけなので、例えばタイヤ銘柄は確認し損ねている。トヨタ C-HRに圧されてヴェゼルがすでに劣勢に回った「古いモデル」であることは商圏的には間違いないが、1台の自動車として見てみれば今回の個体はバリバリの新車である。いつものくたびれた代車の試乗記とはちょっと違いますよ(笑)。

さて、筆者は昨今市場を席巻するヴェゼルのようなSUVというジャンルの自動車にはほとんど興味がない。筆者にとってオフローダー、クロスカントリー車とはスズキ ジムニーだったりランドローバー ディスカバリーだったりジープ ラングラーなのであって、それらと同等に渡河したり荒野のガレ場を走破できるはずもない乗用車ベースの背高クルマには興味が持てないのだ(まぁ仙台程度の雪の朝には重宝するかもね、程度)。だが一方でこれほど持て囃される理由にはとても興味がある。少しでもそれがわかれば、と同僚からキーを引ったくって運転してみた(笑)。

●運転席環境
まず室内デザインについて。ホンダにありがちな複雑なパーツを何層にも重ねたような、目にうるさければ操作も複雑になりがちなコンソールデザインは見られない。昨今ありがちななんでもかんでも液晶タッチディスプレイでコントロールさせられるようなものもない。しかしこれはヴェゼルの設計が古いというだけで、モデルチェンジしたら真っ先に手を入れられる部分ではないか。ナビは2DIN社外品をどうぞご自由に…という今や古の方法。この個体にはGather名義のホンダ純正ナビがインストールされていた。これはあくまでナビゲーションとオーディオ類だけのユニットであり、クライメートコントロールはその下段に独立配置されている。このクライメートコントロールが液晶タッチディスプレイ方式である。最低最悪。部品数が減ってコストが下がって良かったですね。ちなみにデュアルゾーンエアコンではなかった。
 






運転姿勢を調整する。ハンドルはシートに正対して中央にあり、ペダルオフセットは確かにあるが、運転しにくさを覚えるほどではない。シートバックをやや立て気味にセットし、メータークラスタ中央に大きく鎮座する速度計盤面の傾斜と視線を合わせてやれば、正しい運転姿勢が自然と決まる。その時の座面長はわずかに短く膝裏は宙に浮くが、面でのホールドは最低限ある。硬過ぎず柔らか過ぎず。むしろシートバックがきちんと肩甲骨の下端周辺を押えてくれており、10時10分でハンドルを握る腕との関係も良好。

ヴェゼルのハンドルにはスイッチがてんこ盛りである。それはもう珍しいものではないが、ODDメーターを表示させるだけでも大騒ぎである。前述の車両諸機能の設定が、どうやらここに集中しているようだ(未確認)。筆者の感想としては、あらゆる操作子をハンドルにまとめるよりも、表示される場所の付近に関連する操作子が配置されている方が、人間として判断しやすいように思う。この不備はホンダに限った話ではない。
 


運転行為とは直接関係ないが、物入れやソケット類が充実していて驚いた。もっとも同乗した同僚(スバル フォレスター乗り)は、物足りなさそうだった。オフローダーな人と、速くコーナリングすることに血道を上げる人とは、車内に求める機能も違うのだなぁと感慨深い。
 


シフトレバーの下は
小物…大物入れと
様々な規格の接続端子が。
なんとHDMIまであったけど、
何に使うの?


運転席からの視界について本格的には追い込めなかったが、ピラーで視界が妨げられる体験は(短い試乗時間の中では)無かった。この手の自動車特有の高い着座位置からの視線は筆者には新鮮で、周囲の視認が楽なことは間違いない。つまりヴェゼルの運転環境は、かなり健やかだと言える(クライメートコントロール部分は除く)。ちなみに帰路は同僚に運転を任せて助手席に座ってみたが、シートのサイドサポートも含め、運転席と比べての明らかな手抜きは感じられなかった。後部座席には乗る機会なし。

●動的感想
市街地を法定速度で走行した範囲での感想を書いてみる。まず感じたのは「真っすぐ走るのが楽!」ということだった。ということはEPS(パワステ)がセンター付近でがっちり壁を作る嫌ぁなパターンか?と左右の微舵を試してみたが、そういうことでもない。ただし微舵に忠実に反応するわけでもなかった。つまり意図的に「速い舵にはしていない」ということなのだろう。直進が楽なことは明らかにメリットである。

視界が良く直進が楽なのは素晴らしいことだが、ネガティブな点が無いわけではない。まず左側面、もっと言うと左前輪の位置が把握しにくい。これはボンネットの前傾斜がきつく、前端が把握しにくいこととも相互関係があるように思う。理由はともかく、自信を持って位置決めしにくいのは残念だ。これが本格的なオフローダーなら文字通り死活問題である。

スローギアードなステアリングと併せてなんとなくもどかしい感触を覚えるのがスロットル、Aペダルである。ペダルの反応が遅いというよりは、エンジンはがんばっているようだが車速がついてこない系。もどかしいと感じる一歩手前という感じだ。とは言え一時期のホンダ車にあった狂騒的なレスポンスが胡散霧消したことはめでたい。ペダル踏み込み量と加速の感覚はリニアと言えるレベルにあり、コントロールに神経を使うようなことは(少なくとも街乗りレベルでは)ない。車高もロールセンターも高くなるであろうヴェゼルのような車両では、加速も旋回もピーキーではない方が良い、とホンダは言いたいのだろう。それはひとつの見識として受け入れることができる。

ごくわずかな時間・距離を走っての感想なので、なんだか静的観測ばかりが長くなってしまった。運転してみてSUVが持て囃される理由の一部でも理解できるかと期待したが、どうもやっぱりよくわからない。仙台市街地のような低速で走らざるを得ない細い生活道路から、ゴー・ストップを含めた極端な加減速を繰り返す郊外の混雑する国道のようなシチュエーションの両方を走ってみても、なにか明確な利点は感じられなかった。背高で視線が高いことから期待される見切れの良さは、前述のとおり車体デザインの不備によって万全ではなかったし…。そもそもどういうシチュエーションならSUV車両の善し悪しがわかるのだろうか。まずはそこから勉強せよ、ということだった。尻切れトンボっぽいが、これにて了。

試乗記・両極端な2台のMiTo
| 試乗レポート | 20:38 | comments(9) |
2019年年末のことになるが、Profumo姐さん主催によるオフ会で、様々な輸入車を実際に運転させてもらうという僥倖を得た。本稿ではヤマベさんとじゅんすかさん、2台のアルファロメオ MiToについて書く。筆者とMiToとの浅からぬ因縁については今さらここに書くまでもないが、とにもかくにも「筆者の人生を変えたクルマ」である。素人の印象記の垂れ流しは恐縮だが、MiToのインプレッションを書かないなんて「クルマで行きます」じゃない!

ただし言っておくが画像はほぼない!撮り損ねた!すみませんっ!!
 

どがーん!

山形のMiToパイロット、ヤマベさんの個体はとんでもない改造を経ている。本稿のためにわざわざ教えていただいた主なメニューが以下だ。

●エンジン
ECUチューニング(スリーハンドレッド)
スロコン(スプリントブースター)

●駆動系
ヘリカルLSD(クワイフ)
軽量フライホイール(レッドポイント)

●足回り
車高調(ラルグス)
スタビライザー(オレカ)

●ブレーキ
パッド MX72(エンドレス)
ローター HDtype(ディクセル)
ステンレス製ブレーキホース(オレカ)

●吸排気系
エアフィルター むき出しφ150フィルター(HKS)
マフラー (オレカ)

これでもあくまで「主なもの」である。冷やし機能が追いつかないとのことで、ボンネットには冷却ダクトが空けられており、フードはFRPのワンオフもの。見た目的なインパクトという意味では、これが一番か。2019年5月のオフ会会場にたまたまヤマベさんが現れた時は、まさに「場内騒然」であった。そりゃそーだ。

一方のじゅんすかさんの個体は逆にノーマル。非純正はシフトノブだけという貴重な個体だ。実は同門最ヤバイモデル4Cのパイロットでもあるじゅんすかさんだけに、純正状態を維持する意味は大いにあると思う。また古くからこのブログ上で交流があったので、ようやくお会いできたことに加え、話に聞くばかりだった個体を運転できる機会そのものも、筆者にとっては貴重だ。

試乗はヤマベさんの個体から。バケットシート換装済。ケツが入りません!良くこんなの座れるな(笑)。座るだけで一悶着である。敬意を表したつもりでドライビングポジションには手を付けなかったが、特に不具合はなし。MiToはフィアット グランデプントの派生車種だから、シートレールの設えも実用車のそれだ。座面高を低くしようとしても高が知れているのだが、低く座ってもそびえ立つダッシュボードやメータークラスタに視界が邪魔されてしまう。ヤマベさんの組み込んだバケットシートはその辺辻褄が合っていると思った。MiTo QVの兄弟車であるプントエヴォに初めて試乗した時、MiToと比べて視界がすっきりしていることに驚いた。MiToコクピットの囲まれ感は意図的にデザインされたものなのだ。MiToにおけるバケットシート換装の効果は、目線が低くなることではなく、左右のホールド性が高まることである。

カリカリにチューニングされた個体だから…と身構えつつ走り出したが、低速での動きはビビるようなものではない。しかしがっちり身体をホールドされているから、10-20km/hで直角に曲がるだけで、足周りに施されたチューニングによる挙動のシャープさが体感できる。直後に試してみた加速動作でも同様だった。ジャギュワー F-TYPEという生粋のスポーツカーの試乗直後だったが、運転手の下腹にグッと力が入る加速感は同種のものだ。もちろん差異はあるが、それはクルマの質量の違い故だろう。ECUチューニング、スロコンもさることながら、1.2tの車体に軽量フライホイール組み込みの成果は凄い。スパッと前に出ていく。そして道の駅の駐車場だからあっという間に制動性能も試せる。で、またこの制動能力が凄い。単純な制動力という話ならまずは社外品のパッドとローターに触れねばならないが、それだけでなく、Bペダルの尋常ならざるリニアリティはブレーキホースをステンレス製に交換していることが一番効いているように思う。「効きが速い」。これならブレーキを抜く時のリニアリティも高いはずだ(今回体感できなかったが)。

ヤマベさんの個体の凄いところは、これらの挙動全般が決して神経質ではなく、気持ち良くバランスしていることだ。それは走り出した瞬間に気取れる。人間で言えば体脂肪率を極限まで削ったエグザイルのメンバーのような(笑)。低速域の加速のシャープさ、旋回・制動双方に感じる一層の正確性。これはもはや筆者が知るMiToではない(笑)。おまえ誰だ!と言いたくなる(笑)。挙動のリニアリティ担保は自動車の正しい姿ではあるが、「豆腐とネギを買ってきて〜」と言われても、この個体で近所のスーパーマーケットへ行く気には、筆者はならないかもしれない(笑)。良くも悪くも非日常マシンである。その後ヤマベさんの峠アタック的な走行動画を見せていただいたが、なるほど、こう走りたいならこうチューニングせざるを得ないだろうなぁ、という内容であった。すごいよ、ホントに。

一方じゅんすかさんの99.9%ノーマルなMiToはどうだったか。まず意外だったのは、走る・曲がる・止まるの三要素が緩いことだ。極端なヤマベ号試乗のバイアスは当然あったと思うが、それにしても…。単純にプン太郎から乗り換えても感じるであろうほどの緩さである。最も印象に残っているのは旋回だ。「こんなに遊びが多かったっけ??」と目が点になった。

とは言うものの、実はノーマルMiTo固有のテンポで操縦する分には齟齬は無い。ごく短い距離を走らせているうちに感覚が蘇ってきたのか、最初に感じた緩さは胡散霧消して、あるべきテンポで運転を愉しめた。そういう心理状態になって、コクピットに満ちるアルファデザインを改めて愛でることができる。アルファロメオのコクピットデザイン、中でもセンターコンソールやメータークラスタに漂う色気は最高だ。これを毎日眺めながら運転していたのかオレは。実に幸せな時間だったと思う。それに比べればプントエヴォのコクピットデザインは、味も素っ気もない。

こうやって2台を乗り比べて、味わい尽くしたと思っていたMiToの魅力を再認識した。フィアット グランデプントという実用車中の実用車をベースにせざるを得なかった事情を逆手にとって、アルファロメオはMiToを敢えて本気のスポーツカーには仕立てなかった。多分できなかったのだと思う。だから安全な範囲でスポーツ運転の片鱗を味わえるプロムナードカーに寄せた。その気安さこそがMiToの魅力だと思うのだ。実際にMiToに乗っていた頃は、自分の身の丈に合っている実感とともに、もう少し辛口でもいいのに…とも思っていた。だからヤマベさんのように、通底する気安さを敢えて振り切って、「こうあれかし」と信じる高みに押し上げていくという生き方も理解できる。筆者だって金と知識があったら間違いなくヤマベ号を目指していた。MiToの左前脚をぶっ壊してしまい、LHDかつ横幅1,700mm台という条件で探した車種がアバルト プントエヴォで、それはMiToに感じていた僅かな不満点を純正状態でクリアしていた。筆者はラッキーだったと言う他にない。

筆者の生活圏でも、MiToを見かけることは時折ある。あのエクステリアデザインは本当に「うまくやったな」と思う。だって、見ているだけで心が華やぐじゃないですか。一見してスポーティーで、その実ユーティリティ性もあり、ちょっとやる気になれば速く走ることもできる。気安く乗ることもできる反面、要素ごとに組み立てて行けばスポーツカーのような走りも受容する。あんたそんなに懐深いイイヤツだったのか?現役時代に見抜けなくてごめんよ。

というわけで、実に感慨深い試乗であった。ヤマベさん、じゅんすかさん、本当にありがとうございました。いずれちゃんと一緒に走る機会を切望いたします。でもじゅんすかさんがもし4Cで現れたら、4Cにもヤマベ号にも筆者は着いていけないと思う(笑)。だからその時は先頭は筆者である(笑)。我慢してください。

加えてひとつお詫び。この試乗が適った日、ざねさんのルノー メガーヌGTにも試乗させていただいたのだが、ビートル、C43、F-TYPE、2台のMiToまでで脳みそのメモリがパンクしてしまい、残念ながら試乗印象記を書けるほどの情報量が無い。ざねさんすみません。改めて今度、運転させてください!ちゃんと書きます!
 

JUGEMテーマ:ALFA ROMEO

試乗記・akiさんのジャギュワー F-TYPEクーペ
| 試乗レポート | 22:43 | comments(9) |
2019年年末のことになるが、Profumo姐さん主催によるオフ会で、様々な輸入車を実際に運転させてもらうという僥倖を得た。評論ではなく印象記であることを免れないが、興味のある方は読んでみていただきたい。本稿ではakiさんのジャギュワー F-TYPEクーペについて書いてみる。
 

バーン!

実はこのF-TYPEについての印象記を書くのにはずいぶん時間がかかってしまった。先に上梓したVW ビートルAMG C43カブリオレの場合はあれも書きたいこれも書きたい…を推敲して削って書くくらいだったのに、F-TYPEの印象は自分の中でひとつの像を結ばなかった。驚きと歓びに満ちた試乗体験だったのにどうしてなのか。考え続けてきて、はたと気が付くことがあった。そしてようやくこれを書いている。
 

「ひっくー!
センパイ!フェラーリは
最初からシャコタンですよ!!」
というシャコタン★ブギのセリフを
思い出さずにいられないこの車高

まず試乗してみた印象を書いてみる。車高もシート座面位置も断然低い。アバルト 124スパイダー(NDロードスター)乗りのみなさんなら楽勝なのだろうか。スマートに乗り込むには慣れ(あるいは作法の習得)が必要だ。RHDの運転席に着席してエンジンをかけてみる。プッシュボタンの位置をakiさんに教えてもらう都合から、ドアは開けっぱなしでの始動となった。


ドグオォン!

という盛大な爆発音。筆者本気で「え?なにかヤバイことが??」と不安になった(情けない)。尋常ならざる始動音に続くアイドリングも、何かどう猛な動物と対峙した時のような、不用意にアクセル踏むとマジでヤバイことが起こりそうな、不穏な空気を纏っている。
 





ドアを閉める。その不穏なアイドリングがとたんにどこかに行ってしまう。ハンドルが電動で降りてくる。直前に乗ったAMG C43と同じだ。今回の試乗はしまの助さんが同乗してくださったのだが、コクピット内は望外に静かで、アイドリング状態ならまったく普段通りの声量で会話ができる。C43に引き続き内装の豪華さに気圧されてしまい、ハンドルとペダル類のオフセットをチェックし損ねた。ただRHD環境のAペダルが文字通り右足を自然に投げ出した先にいたこと、Bペダルの横幅が広くペダル同士の高低差も実に自然だったことは強く印象に残っている。

道の駅の駐車場をぐるっと回る程度の体験なのだが、アルミボディの思った以上の堅牢さや、Aペダルの操作に間髪入れず追従するトルク感は強烈。もっとも筆者が得た印象など、F-TYPEの素性を考えればまだ入口にも立っていない、アイドリングに毛が生えた程度の動力性能しか見ていないのだろう。

低速で直角に旋回するにあたり、普段自分が乗っているプン太郎よりも200mmも広い全幅を心配したが、杞憂だった。いやもちろん絶対値として横に広いのはわかるのだが、旋回挙動がひたすらリニアで、しかもタイヤの向きを余さずハンドルに伝えてくれるおかげで、Aペダルを踏む量さえ間違わなければ自信を持って曲がれる。試乗している最中、筆者は「こりゃあすげえや!」と笑っているか、感心して「うーん」と唸っているのどちらかだった。一応元の場所に後退で停めたが、このクルマの後方視界はほとんど無いと思ってかまわない。真っすぐにレーンには入ったが、どこまで下がれば良いかはまったく見当がつかず、akiさんに誘導してもらうことになった。もちろん後方モニターはついているので本気で買おうという人は心配しなくてもいい。

という具合で、終始驚いたり破顔したりという体験だったのだが、加速が凄そう!とかキュッと曲がる!なんて文章を印象記としてアップしても始まらない。どう凄いのかを考え続けて、はたと気付いた。単純に言えば、それは筆者の知らない世界だったのだ。

もう少し具体的に書いてみる。筆者がこれまでの人生で体験してきたクルマは、すべて「実用車」である。例外としてホンダ S2000、アバルト 124スパイダーというオープン2シーターがあるが、それだけである。クルマという工業製品を自分の五感と理屈で理解しようと意識したのは、アルファロメオ MiToに乗るようになってからで、以来短時間でも試乗させてもらえれば、感覚と何かしらの理屈で理解しようと心がけてきた。だがその理解のベースになるものは、筆者の履歴上MiToとプン太郎であり、もともと同じクルマであり実用車ベースのチューニングカーである。だがF-TYPEは違う。(商品販売上の目配せがあれこれあるとしても)純粋にスポーツドライビングを楽しむためのシャシーであり、ボディであり、エンジンであり、ブレーキだ。はっきり言って出自が違うのだ。ただでさえ高性能なものを、さらに高次元へ鍛え上げた「スポーツカー」そのものであり、富裕層の財布をターゲットとするクルマなのだ。そりゃ筆者にとって未知の世界なのは当然で、孫悟空の觔斗雲に等しい

当日、C43からF-TYPEに乗り換える時、直前に試乗したkikuchiさんから「気をつけて!欲しくなるよ!!」と声をかけられた。そりゃあそうでしょう…と、ある意味冷静になって乗り換えた。だがその時筆者はまだよくわかっていなかったのだ。「実用車の辛口仕立て」と「専用設計」の本質的な次元の差を。実用車を要素ごとに高性能に仕上げて…という理路なら、どれくらい凄いのか筆者なりに推測・理解することができる。だがスタート地点がそこからさらに上のところにいるF-TYPEのようなクルマを、その理路で理解することは元から無理である。だから筆者はこのテキストをなかなか起こせなかった。しかし本物のスポーツカーを運転したのだ!と理解すれば、あのどう猛なエンジンが、あの旋回性能が、あのボディの硬さがどれほどの高みにいるのか朧げながらわかる。

そして朧げながらもその凄みがわかった今、猛烈にF-TYPEが欲しい。プン太郎でさんざん走り回っているいつものツーリングコースを走っても、もしかしたら楽しくないかもしれない。しかしどこか未知の道路に、プン太郎では味わえない世界が開けていることだろう。そして、フェラーリやマセラティと言ったスーパーカーリーグにも「色合いや風味の違い」みたいなものがあるはずだ…と、リアルに想像できるようになった。そんな世界があることを垣間見せてくれたF-TYPEとakiさんに感謝します。

あぁ、運転をミスってぶつけたりしなくて本当に良かった(笑)。
試乗記・kikuchiさんのAMG C43カブリオレ
| 試乗レポート | 00:01 | comments(12) |

Profumo姐さん主催によるオフ会で、様々な輸入車を実際に運転させてもらうという僥倖を得た。評論ではなく印象記であることを免れないが、興味のある方は読んでみていただきたい。本稿ではkikuchiさんのAMG C43カブリオレについて書いてみる。
 


さっそくProfumoさんのサイトから
勝手に拝借


筆者はドイツ御三家のクルマを運転したことがない。たった一度だけ友人父上のVW ゴルフ7を運転させてもらったことがあるきりだ。ましてやメルセデス・ベンツ、AMGの、しかもDセグメントとなれば、これは皆無である。縁がなかった。しかし知識として知ってはいる。筆者の中のベンツとはW124、500EやW201、190である。堅牢。剛健。高速走行。鈍重な加速。安定重視の旋回挙動。みたいな、世間に敷衍していたこういうイメージだ。

しかし90年代後半からこちら、500Eを造っていたメルセデス・ベンツはいなくなった。こういうことを言うとオーナーさんは良い気がしないと思うが、生産効率追求と「アジリティ」を錦旗にして、走りのキャラクターをBMW的なものに路線変更してきている。加えて山盛りの電子制御だ。筆者はこの変わりっぷりを正直腹立たしくさえ思っている。「オレの感動を返せ」的な。ただしこの憤りも、早い話が思い込みと勝手な幻滅という中二病理論である。そう、筆者は憧れのメルセデス・ベンツ(AMGだっつの)との初対面に、アガッていたのだ。

さて、運転してみてどうだったのかを、まずは端的に書いてみる。右ハンドルの運転席に座る。ドアを閉めると自動的に元のポジションに戻るハンドルのギミックや、ドア側に付いているお馴染の電動シート調整スイッチを眺めると、「現代の高級車」の達成レベルとして求められるものの高さについて考えさせられる。そのままハンドルを握ってみると、とりあえずkikuchiさんのドライビングポジションで大きな齟齬はないので、このまま走り出してみることにする。豪華な車内環境にビビって観察し忘れたが、右ハンドル輸入車特有のオフセットは特に無かった…と思う。視界も良好。しかし1,700mm台の横幅のクルマばかり運転している筆者にとって、横幅1,810mm程度のC43でもとにかく巨大だ。
 




しずしずと走り出す。とても静かだ。カブリオレとは思えない。外界と隔絶されている感がある。なんというか、ひたひたとパワーが満ちてくるような加速感で、Aペダルをがばちょと踏むのが躊躇われる。ボディの巨大さと湧き出る力感に圧倒される感じ。そして速度を上げなくてもぜんぜん苦にならない。しずしず走ってるだけで楽しい。この圧倒的余裕は初体験だ。

道の駅の駐車場をぐるっと回るだけの試乗なので、カブリオレボディの強度や、鬼のような高速安定性なんて要素は検分できるはずもない。ごく低速で数百メートル動かしてみた体験を無理やり何かに例えるなら、シネコンの超豪華ソファーシートでの映画鑑賞と言える。築50年のおんぼろ映画館で観ても、最新のシネコンで見ても、映画作品の中身に変わりはない。ビートルタイプ1とAMG C43カブリオレ双方試乗体験の本質は「自動車を運転した」という事実である。しかし筆者の場合、冒頭に書いた中二病的思い込みを排除してこの文章を書くのは、思ったより大変だった。こんな戯れ文でも数回の推敲を経ているのだが、今回はほぼ丸ごと書き直しを3回やった。その上でC43に、と言うよりも今のメルセデス・ベンツ、AMGに対して抱くモヤモヤをふたつ書いてみる。
 


ひとつはクルマのキャラクターに関すること。正直なところ90年代以降の品質変遷についてはまったくわからない。今回は精緻な機械部品で構成された高級車の運転体験の片鱗を堪能した。そしてもっとも印象的だったのは「パワーがあれば、速く走らなくても楽しい場面がある」ということ。C43のエンジンと言わずシャシーと言わず内装(特にイス)と言わず語りかけてくるのは、圧倒的余裕だった。しかし、ではそれがC43のレーゾンデートルかどうかはわからない。ベントレーやロールスロイスといった巨大エンジンを擁する超豪華サルーンや、レンジローバーやジープといった正統派クロスカントリーカー(つまり絶対速度が尺度になり得ないジャンルのクルマ)が存在するこの世界で、ベンツ、AMGのこのキャラクターは依然として屹立したものになっているのか?という問いである。

もうひとつは安全性能に関する二枚舌について。有名な話かもしれないが、ベンツのクルマはフロントライトのオン/オフは完全自動でマニュアルモードはない。今回乗り込んだ時にkikuchiさんから操作法の簡単なレクチュアを受けたのだが、「フロントライトはオフにはできない」と言葉で聴いて、軽く衝撃を覚えた。これはメルセデス・ベンツが「人間は必ずミスを犯す」前提でクルマを造るからだ。どうせ事故を起こすんだから、とクラッシャブルゾーンという概念の導入も早かった。つまりベンツは運転手を、人間を信用していないのだ。

百歩譲ってそれはそれで良い。電子安全デバイスの重畳も、人間を信用していないのだから理路は通っている。しかしそれならなぜ液晶画面を注視しなければならない「コマンドシステム」などを導入するのか。なぜレクチャーと取扱説明書無しに操作できないようなダッシュボードデザインにするのか。社是と製品にはっきりと齟齬がある。これは何もベンツ、AMGに限った話ではなく世界中の「プレミアム」と称するクルマが罹患している病気だが、こと中二病的思慕の対象だったベンツ車両に対しては、「最善か無か」なんて言っていたクセに、と思ってしまう。

材質や設計だけで安全思想を実現してた頃とは時代が違いますよ、と経営陣は言うのかもしれない。それはそのとおりだと思うが、運転手が前方を注視しつつ各種のデバイスを操作するという自動車運転の本質は、今のところ時代と関係ない。今回の試乗で感じた「ひたひたと満ちてくる力感」と、条件さえ整えば手放し運転で高速走行ができるダイムラー・ベンツ社製品の現実が、頭の中で一致しない。ドイツ車らしい剛健さとベンツらしい加速挙動には関心したが、運転席の眼前に広がる眺めには納得できなかった。ヤサグレたイタリア車乗りに快くキーを渡してくださったkikuchiさんに、こんな試乗記をお見せするのは正直心苦しい。しかし興奮とすると同時に頭のどこかが醒めてしまう、「ではベンツらしいモダンセイフティとはどういうものなんですか?」という疑問が湧いてくる体験だった。

試乗記・Profumo姐さんの「愛せない」VW ビートルタイプ1
| 試乗レポート | 20:36 | comments(9) |

2019年12月21日に開催されたProfumo姐さん主催「うちのBeetleお披露目オフ」で愉快な時間を過ごしたことはすでにエントリーした。

ブログ「クルマについて語りたい」
【御礼&ご報告】うちのBeetleお披露目オフ in 宇都宮

筆者目線の参加レポート
「うちのBeetleお披露目オフ in 宇都宮」参加レポート

顔見知りが多かったせいか、ユーのクルマ、乗せてくんない?オレのも乗ってみてよ!、という雰囲気に満ちていた。そのおかげで滅多に乗れないクルマのステアリングハンドルを握る僥倖を得た。文章書きが本業でもなく、またロジカルに自動車を理解するだけの知識もない筆者なので、機械構造的裏付けのない単なる印象記を免れないが、興味があれば読んでいただきたい。本稿ではまず主催者Profumo姐さんの新兵器、VW ビートルについて。
 


フロントライト、
左右でちょっと様子が違ってない??


2003年メキシコ製。初年度登録2004年。まずは遠巻きにフロントトランクやリアエンジンルームを覗き込む。外観をさらっと見渡してみても、武骨な造りであることがよくわかる。にょきっと生えているドアミラー、板金の抵抗だけで充分「よいしょ」な感じのドア、Bピラー根本床下には横メンバーと思われる鉄骨角材がそのまま晒されている。内装も負けず劣らずで、各種スイッチやレバーは樹脂素材がそのまま放り出されているかのようだ(唯一ファブリックシートはそれなりに新しい感じだったけど)。姐さんのアルファロメオ ブレラが入院中の足として健気に働いてくれたらしいが、ブレラを受け取って着席した瞬間に、あまりの違いに(というかブレラの内装の豪華さに)驚いたという。

左ハンドルの運転席に着席してみる。コクピットは狭い…というか、助手席が近い。が、運転操作の邪魔になる感じはしない。前後左右頭上に必要なスペースは確保されている(ひとりで運転したので、本当の意味でのカップルディスタンスはわからない)。前述したように、運転席からの眺めは簡素にして質素。平らな板金素材のパネルに所々穴が空いていて、そこにメーターやランプやスイッチをはめ込んだ「だけ」に見える。マニュアルトランスミッションは4速。ニュートラルがウルトラわかりにくい上に、各ギアも入ったのかどうか分かりにくい。

3つのペダルを順に踏んでみる。Aペダルはオルガン式で抵抗も軽い。実際の加速感とシンクロしていると良いのだが…。Bペダルはおそろしく踏み代が深い。どこまで行くんだ??という感じ。Cペダルも然り。BCペダルは組付けもなんだかふわっとしている。昨今のクルマのペダル類は一式アセンブル組付けだと勝手に思っているのだが、ビートルのペダルは極端に言うと各ペダルの組み込み時期がマチマチなように感じる。この感触がバラバラなペダルと曖昧なシフトノブの動きから、動かすこと自体が手強そうだ…という印象を受ける。

仮にスペアキーだとしても素朴過ぎるだろ…という銀色の平たいキーを捻ってエンジンをかける。空冷水平対向4気筒エンジンが奏でる勇ましい中低音が後ろから聴こえる。音振対策?それなんですか?という態の設えだから、もっと室内はうるさいと覚悟していたのだが、それほどでもない。意外だ。件のふわっとしたCペダルを思い切り踏み込み、シフトノブの1速を探す。踏み込みが深いおかげでシートは思っていた以上に前に詰める必要があるのだが、するとハンドルが近過ぎる。シートバックのリクライニングでハンドルとの距離を調整すると、今度はシフトノブが遠い…。まぁ古いクルマである。あきらめてCペダルを恐る恐るつなぐ。
 


動き出した直後は素直に低速時トルクの太さを実感できる。この印象には車体が軽いことも大いに効いているのだろう。だがノンアシストのステアリングはズシッと重い。懐かしい感じの重さだ。よいしょと回してもう少し速度を出してギアを2速に上げる。この辺でようやくハンドル操作とアクセルの踏み込み量の辻褄があってくる。RRだから前荷重がどうのこうのと考える隙を与えない重みだ(笑)。改めて落ち着いて窓外を見ると、加速している感はたっぷりある。実際の速度がどうかはともかく。ちょっと驚いたのは3速に入れてからのステアリングの反力。明らかに軽くなり、動き出し前半とは段が付いている。ある速度を境目に急にハンドルが軽くなるのだ。

踏み込み量まちまちのペダルと遠くて曖昧なシフト、そして反力に段が付いているハンドルの三つ巴に翻弄されるビートル初体験だった。ちなみにブレーキペダルが思ったとおり甘あまで(笑)。とにかく踏んでも止まらない。Bペダルは「踏んづける」という表現がぴったりくる。

散々な感想を書き連ねているが、特濃の機械操作体験にわくわくしっぱなしだった。刺激的な運転体験と言うよりは、純粋に「なんか、おもしろかったー!」と言いたくなる。しかし運転を終えてビートルを降りてみれば、クルマが大好きな人間として、胸中に色々なことを考えずにいられない。



トランク。
意外と積める…と考えるか、
その逆か


●ドイツらしさとは何か
動かす前、外からあれこれ眺めている段階で、意外にも堅牢な印象があった。質素かつ簡素な造りなのは一目見れば直感できるのだが、柔な感じがしないこともまた直感できる。実際ドアの閉まり方などは最新の軽自動車など比べるべくもなくがっちり閉まる感触がある。音も如何にも硬そうな物体同士のぶつかる「ガツン!」という音。運転中も車内からきしみ音が聴こえるようなことはなかった(まぁ低速でぐるっと一回りしただけだし、その他の音が盛大にうるさかったのではあるけど(笑))。この「如何にも堅牢な機械」こそ、筆者にとってのドイツ車の代名詞である。このビートルタイプ1がイメージ通りの「ドイツ車」であることは、大げさに言えば奇跡だと思える。だってビートルタイプ1、もう80年くらい前の設計なのだ。原初設計どおりじゃないとしても、それほど古い設計のクルマの2003年製造である。16年オチ。なのにこのがっちりというか、ごっちりというか、硬くて撓らない感じは驚くしかない(普段イタリア車に乗っているからかもしれないけど)。沢村慎太朗の著作からの受け売りだが、ドイツ人は空間の隔離に異常に執着するという。ドアがきちっと閉まっていないと個室とは認識できないらしい。襖や障子ではダメなのだ。気候風土がもたらしたものなのか、多民族がいくつも混じり合って、長い混迷の時代を経て国家形成した歴史がもたらしたものなのかわからないが、空間の密閉はドイツ人にとって重要なのだという。ビートルに乗るとそれが実感できる。筆者の考えるドイツらしさが、そのままクルマという形になっている。

●古いクルマの運転体験
上に書いたようにペダルとシフトの動きに統一感がない。それに加えステアリング挙動に段が付いている。こういう部分は、確かに設計の古さに由来しているのだと思う。オーナーの姐さんによれば、そこは慣れれば気にならなくなるという。今回のわずか数分の試乗でも、こういうもんかと許容できてしまう気配は自分の中にもあった。こうなると加速が悪いとか絶対速度が低いとかは気にならなくなる。なんだかよいしょよいしょとクルマといっしょにがんばっている感覚がある。そして筆者は「こういう体験こそが自動車の運転だ」と思わずにいられない。自動車趣味に於ける操縦とは、如何に機械動作に人間が関与できるかの1点に集約されると思う。その意味ではビートルは正しくクルマの操縦体験ができるクルマである。

●愛せない
アルファやアバルトに毒されたヘンタイの姐さんは、ビートルはかわいいけど愛せないという。ブレラに数日乗れないと「動かせなくてごめんねー!」と罪悪感を覚えるというが、ビートルはそこに停まっているだけで「よしよし」と満足してしまうのだという。満足しているのに愛せないとは、こは如何に。初めは姐さんの言ってることが理解できなかった筆者だが、自分で動かしてみるとなんとなくわかる。

ビートルタイプ1は極端な例だとしても、出自の国を問わず、少し古いクルマとなればペダルやシフトノブやハンドルの動作に多少の曖昧さを感じるのは、2019年の今ではある意味で当然だ。愛せないのは曖昧だからではなく、その曖昧さに至った思考経路が、慣れ親しんだイタリア・フランス車のそれと違うからではないか。

例えば今回衝撃を受けたABCペダルの感触。同じことが80年代のアルファロメオ車にあったとする(実際あるんじゃね?)。そのペダルを踏みつけてクルマを動かしてみて、我々ヘンタイはイタリア人特有の微分的思考の結果、ペダルの操作感よりも他にもっと優先する項目があったんだろうと推測できるし、結果的に細部の動作が曖昧でもクルマ全体の挙動として嬉しくなるものになっているケースが多い。だから愛せる。だがちょっと古いドイツ車ではその意味が異なる。単純に、技術的限界で理想に到達できなかった残念感が漂うのだ。「塩梅良く」なんて概念はドイツにはないのだろう。全方位的にしっかり造れば良いプロダクトができるはずという信念に拠って、ネジ1本から精度を高めるたゆまぬ努力「しかできない」のがドイツ人。現代のポロやゴルフからは、ネジ1本手を抜かない執念のようなものを感じてしまう。しかしだからこそ不完全な部分を「愛しい欠点」とは思えない。つまり愛せないのだ。姐さん、違いますか?

●歴史遺産に今も現役で乗れる幸せ
そんなこんなで所有したいとは1mmも思えないが、オリジナルビートルが今でも実走していることは素晴らしいことだと思う。間違いなく自動車史のマイルストーンであり、そのレガシーをバキバキ動かすことができるなんてラッキーなことだと思う。愛せないとしても、所有し、運転を体験する意味は確実にあると思う。

などなど。ちなみに姐さん、現在124スパイダーの納車待ち。納車されたらこのビートルは売っ払うのだそうだ(笑)。確かにアルファロメオ ブレラ、アバルト 124スパイダーと一緒に所有するには、ビートルはあまりにも肌合いが違い過ぎるから、それもわからなくはない。だがひとつ確信に近い実感として、オリジナルビートルはまだまだ生き延びていくだろうと思う。機械としてはぎこちないものだが、ドイツ的成長過程の証として愛好したいという数奇者はまだ多くいるだろう。その点リバイバルしたNewとかTheのついたゴルフ改変版とは根本的な価値が違う。違い過ぎる。オリジナルビートル愛好者たちからそっぽを向かれたのもわかる。なんにせよ、貴重な体験をさせていただいた。姐さんありがとうございます。

試乗記・トヨタ ヴィッツ・クルマの趣味性とはなにか
| 試乗レポート | 09:46 | comments(18) |

老母がトヨタ パッソを車検に出した。代車に乗って帰ってきたら、その代車はヴィッツだった。現行、すなわち3代目。初代はスターレットからのリプレイスでものすごく力が入っていたとのことだが、2代目を経て現行の3代目の劣化具合は酷い!と見聞きしていた。特に最量販グレードの手抜きが酷く、慌ててマイナーチェンジが施された…とも聞く。筆者としてはどれだけ酷いのかの方に興味がある。場合によってはレンタカーで半日借りても良いとすら思っていた。そりゃ運転してみるわ。

さて本稿、「また欧州車バカによる偏見たっぷりのトヨタディスり大会だろ」と思われた方には申し訳ないが、ヴィッツ、決して悪いクルマではなかった。そのことに筆者本人が驚いている。自分で買うとは微塵も思えないが、買うという人を全力で止めるようなことはしないだろう。ただし買い手のキャラクターを判断しつつ…ではあるが。そのあたりを軸に書いてみたい。
 


本来なら仕様などを明らかにすべきなのだが、さぼってしまった。夜間に30分ほどそそくさと乗ってみただけで、車検証を見もしなかった。恐らくハイブリッド無しの1.0Lモデルだろう。レンタカーである。なぜ非ハイブリッドと判断するかというと、ブレーキに回生動作らしいものがなかったからだ。試乗コースは自宅近所のライトな峠道で、自動車の性能見極めのための筆者定番コースである。

●運転環境
ハンドルはシートに正中正対しているが、A/Bペダルにはオフセットあり。RHD前提の国内設計車両にペダルのオフセットがあることを、みんなもっと怒っても良いと思うんですが。しかしペダルの組付けそのものはしっかりしている。正直こんなにしっかり組み付けられているとは!と驚くレベルである。家人のシトロエン C3以上VW up!未満。シートは平板かつ座面長が不足気味。ではあるものの座り心地は悪くない。決して豪華なイスではないが、必要最低限のものにはなっている。メーター類は速度計、水温計、燃料計の3つでタコメーターはなし。CVTだから回転数がわからない方が心安らか…という理由かどうかは知らないが。

スイッチやダイヤル類の操作感は上々。スイッチ類がラッチする際のしっとりした抵抗や、ダイヤル類の抵抗やノッチの切り方など、決して貧乏くさくない。こういうところはFCAもPSAも見習ってほしい。スマートキーにスターターボタン。もはやヴィッツですら。シフトノブ、サイドブレーキレバーの周辺には様々な形の溝が掘られていて、小物類を置くのに便利。実際にスマートキーを置いておいたら、旋回時にカタカタとうるさかった。

●運動性能
まずは加速性能。意外なことに過不足を感じない。トヨタ車の身近な比較対象となると、まさにヴィッツ試乗のきっかけとなった車検に出しているパッソ(初代の1リッターモデル)なのだが、あれと比較するのも申し訳ない…というくらい違う。少なくとも60km/hまではまったく痛痒を感じない。ただし3気筒ガソリンエンジンのびゃーーーっ!という音は、容赦なく室内に入ってくる。

感心したのは足周りの動きで、さぞかしだらしない低速スペシャルなぼよんぼよんサスだろうと思っていたのだが、日本の道路事情を熟知したなかなかの足周りだった。プン太郎だと急減速せざるを得ないような段差や穴なども、必要以上に丸めず、かと言って余計な揺り戻しや微動などをうまく封じている。筆者の知る限り一番モダンかつよくできた足のC3と比べても遜色ない。やや乾いた印象のしっかりした足だと思う。

パワーステアリングの動きを注意深く探ると、動作に目立った瑕疵は無いものの、前輪の現状を色濃く伝えてくれるわけではない。またどの角度でも動き始めに粘つくような、妙なフリクションが乗っている。動かし始めのほんの一瞬なので、オーナーになったら気にならないかもしれない。それよりも車体の旋回とハンドルの切り増し分に僅かながらズレがあって、結果として「切ったのに思ったより曲がらない」場面があった。タイヤとのマッチングもあるのかもしれない。そのタイヤのブランドと商品名は忘れたがエコタイヤ。横方向に踏ん張れない。峠道の登り旋回時、ズルズル横に出始めているのかもしれないのに、ハンドルはそれを教えてくれない。筆者の知る欧州車の典型のように、高負荷高機動になるほど動作がシャープになっていく…のとは反対。速く深く曲がろうとすればするほど挙動のフォーカスがぼけていく。

ブレーキは全般的に欲しい能力の8割9割というところ。夜の峠道とその周辺での試乗で、人もクルマも周囲にいない状態。せっかくだからパニックブレーキも試してみるか、とまさにBペダルに足を置いた瞬間、草むらからタヌキが飛び出してきた。図らずも本気のパニックブレーキになったのだが、本気の制動力はあまり高くないことがわかった。「!、止まらん!!」と踏み増しても制動力は微増するだけで、ギュギュッとアスファルトを引っ掻くような制動はしてくれない(タイヤもタイヤだしな)。思った以上に制動距離が延びるけれど、ともあれそのタヌキもヴィッツも無事で、その後帰宅するまでにもう1匹タヌキ、さらにネコ?も飛び出して来た。田舎の夜の試乗は、人間よりも夜行性動物に注意が必要なのだ。

●まとめ
トヨタのクルマは60km/hまでの範囲でなら卒なくまとまっている。これは筆者の持論だが、このヴィッツもやはりそうであった。ノイズ制御だけはプアだから車格を意識してしまうが、それを言うならプン太郎もC3も同様である。ただヴィッツは何をどうしてもいっぱいいっぱいな印象だが、C3は余剰というか、余裕を感じる。1リッターと1.3リッターの違いだろうか。エマージェンシー的な動作はブレーキ以外は試していないが、日常領域で破綻を感じることは恐らく無いだろう。しかもレーンディパーチャーアラートまで付いているのだ。峠道を上ったり下りたりしている間、時々ピーピーとブザーが鳴るので何かと思ったら、白線を踏んでいたのだった。白線を踏んでいることを教えてくれるくらいなら、パワステのチューニングをもっとしっかりやってくれよと思う。パワステがもっとちゃんとしてれば白線なんざ踏まねえっての。ともあれ走り以外の要素を豪華にするトヨタの執念はすごいと思う。これが売れるクルマ作りである。

CVTや薄っぺらいイス、情報の少ないパワーステアリング、緊急時にはあまり頼りにならないブレーキと、あれこれ論う(あげつらう)ことはできるが、それらのことを気にしない人が買うのがヴィッツである。またほとんどのユーザーが60km/h以上で忙しくハンドルを動かしたりはしないだろう。ヴィッツの運転席に座っても、そもそもそんな気が起きない。だから今ここに書いたことは購入時の減点要素になり得ないのだ。そうなると100万円台半ばという車両本体価格と合わせれば、ヴィッツを否定する要素がなくなってしまう。運転していて命の危険があるとか、健康に害があるとか、少なくとも積極的に購入を止める理由がないのだ。

試乗中、ヴィッツがプン太郎よりも優れているか考えた。答えは否である。そもそも立脚点が違う。ではシトロエン C3との比較ではどうだろうか。意外や拮抗していると思った。ヴィッツには安普請ゆえのビハインドはあるものの、CVTを除いて個々の性能要素だけを比較すれば、C3になんら劣る部分はない。

トヨタはこのヴィッツのユーザー像をどう想定したのだろう。商用から自宅のセカンド/サードカーまで、実に幅広いユーザーがいると思う。トヨタ車のどれでも良いのだが、初めて運転席に着席した時に、「お、こいつとはうまくやっていけそうだ」などという感慨は一切湧かないのが常だ。誰でも抵抗なく運転できるように調整した結果、誰のためにもならない乗り味になるのだ。トヨタ車の運転フィールはいつもどこかよそよそしい。最大公約数でありアノニマスなのだ。もちろんこのヴィッツもそうだった。

C3はもちろん、プン太郎にも「こういう運転をした時がもっともパフォーマンスが良い」という範囲が確実にある。そこを見切る必要はある。その見切る一手間こそが、自動車という機械の「趣味性」と言われる部分ではないか。「わからない人もいるかもしれないが、自分はわかった!」という優越感と言い換えても良い。クルマによってその範囲は千差万別だが、趣味性を内包するクルマはユーザーとの対話を要求する。ヴィッツは対話を求めない。オーナーとクルマは常に主従関係であり、クルマは従者であれば良いと考える人にとって、ヴィッツは買い得感の高い自動車である。

試乗記・alfa_manbowさんのアルファロメオ 156 2.5 V6 24V
| 試乗レポート | 21:02 | comments(14) |

先日実施した当ブログのOFF会。その参加者の愛車を運転させていただく僥倖を得た。これまでに3台の備忘録的試乗記をアップしてきたが、最後はalfa_manbowさんのアルファロメオ 156である。
 


説明の必要もないが、
一番手前の黄色いヤツが
156。
全塗装の憎いヤツ


V6ですよ。2.5リッターの自然吸気ですよ。あと「アルファロメオオーナーになれます」。などなど、このクルマの魅力を色々な言葉で書くことはできるが、それらをひっくるめて、結局は「運転体験の密度が濃い」、これに尽きるのではないか。先に書いた3台に比べると明らかに遅い。しかしこれは正しい書き方ではない。先の3台は「過剰に速い」のだ。プレイステーション1から2に買い替えると1には戻れないように、プン太郎や124スパイダーに慣れてしまうと156は遅い。そもそも動的性能に無駄な部分が多い。効率が悪い。

だがその余剰な部分を飲み込みつつ走りを組み立てる面白さはどうだ。クルマとの対話なんていう手垢の付いたフレーズに、俄然リアリティを感じてしまうのが156の運転体験だ。加速のひとつひとつが、大小の旋回のひとつひとつが、数手先を読んで自ら組み立てなければならず、「なんとなく」な運転では許してくれない。695Cでは、メガーヌR.S.では、124スパイダーではあっという間に達してしまう80km/hが、156では「ひと仕事したなー」という達成感とともに実現される。こんなにペダル踏んだりシフトノブを忙しく動かしたんだから、もう120km/hくらい出てるんじゃないかなーとスピードメーターを見ると、「えぇっ!?まだ80km/h??」という驚きになる(違法です)

そのことでイライラするかって??真逆である。こんなに楽しいのに安全な速度なんだー!という安心感(笑)。156の運転の楽しみとは「過程」なのだということがよくわかる。最近「ダウンサイジング過給エンジン」の功罪を考え続けているのだが、156を運転すると「なんか、クルマってこれでいいんだよな」と思わされてしまう。プン太郎の悪い面に気付かされてしまう、ある意味恐ろしいクルマではある。
 

JUGEMテーマ:ALFA ROMEO

試乗記・denzouさんのアバルト 124スパイダー
| 試乗レポート | 21:22 | comments(6) |
立て続けに4台の試乗が叶った先日のOFF会。備忘録的な試乗記の第3弾はdenzouさんのアバルト 124スパイダーである。

このブログでは124スパイダーの試乗記をすでに2本掲載している。

2016.10.18.
試乗記・ABARTH 124スパイダー あれこれ言ってもしょーがない
2019.05.04.
試乗記・アバルト124スパイダーふたたび

上記Tazzaさんの個体とは異なり、純正のビルシュタイン足に純正装着タイヤ(ポテンザ RE050Aである!)、その他諸々純正状態(ホイールだけは軽量化)のdenzouさんスパイダー。Tazza号は大変な好印象だったが、それは多額のお金をかけた足周りや吸排気系のおかげかもしれず、純正状態には盛り上がれなかったらどうしよう…という心配があるにはあった。走り出すまでは。だが杞憂だった。どうも発売直後の試乗で盛り上がらなかったのは、運転姿勢を御座なりにしていたからのようだ。許可をいただいてシートポジションをあれこれ調整し、適正な運転姿勢でもって走ってみたdenzou号、やっぱり楽しいことがよくわかった。

ではdenzou号とTazza号の違いは何か?と問われれば、反応の情報量ではないか、と答える。「とんかつ好き?」という問いに対して、denzou号は「うん。好き」と応え、Tazza号は「好き好き!ロースとヒレならまずはロースかねぇ」と応える感じ。なんじゃそりゃ。つまりTazza号はいくらか饒舌なのだ。しかしそれは比較の問題であり、denzou号が無口なわけでは決してない。短期間に乗り比べたからこそわかる差異である。またdenzou号は物腰穏やかだが、Tazza号はややワイルド/豪快だった。交換した社外パーツのキャラクター故だろう。

そういう事象から想像するに、124スパイダーの基になっているマツダ NDロードスターそのものがキャパシティぎりぎりに作られていて、市井のチューナーはもちろん、大フィアットでさえ一発大逆転的なキャラ替えチューンナップは難しかったのではないか。素材としてそもそもソリッドなクルマなのだろうと想像するもの也。denzouさん、本当にありがとうございました。

※なんと、denzouさんのスパイダーをピンで写した画像がなかった!すみません
 

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